招福楼関連の店に美味いものなしか、青草徐{

八日市の本店には行ったことがないのですが、丸ビルの東京店、20年修業して独立開業したという祇園の「山玄茶」を訪問して私は、「招福楼は過大評価なだけの店ではないか」という疑問を抱きました。この2店、調理レベルも低く食材の質もイマイチと完全な評判倒れ。そんな友里が「ミシュラン2010年」で新2つ星として招福楼出身のこの新店を見つけたのですから、検証に行かない手はありません。天現寺近くにあるこの店を訪問して私の疑問は確信へと変わりました。

アプローチに凝ったわかりにくい入り口を入ると明るい店内に6席程度のカウンターがあります。当日は一人客が居たからか7席となっており非常に狭く感じました。他には個室が2つあるだけの小キャパな店であります。
2万円1本のコースは生湯葉とウニの入った柚子釜でスタート。一口味わって、予想通りと言いますか先行きが不安になったのです。料理が温過ぎ。味をどうこう言う以前の問題で美味しく感じるはずがない。続くお椀のタネは蟹真丈でしたが、これまたぬる過ぎで出汁も甘過ぎで、これが「近江料理」というものなのか。

造りは食感の悪いスミイカに旨みを感じない鯛と緩いトロ。我々はオープン当初だったのでサクから切り立てでもこの食後感。主人は何人分も同時に切り置いていましたから、後の客はもっと悪く感じたことでしょう。客単価が2万5000円前後の店で刺身の造り置きはいけません。飯蒸しは穴子の質が悪くはないけど柴漬けが余計。必要以上に味が濃くなるだけです。マナガツオの焼き物も皿が冷たくNG。牛肉の山椒焼きはまずまずながら量が少なく残念。その他は蕎麦と炊き合せ(大根と下仁田ネギ)に〆は白ご飯ですから、海苔やイクラ、唐墨が香の物と共に供されたと言っても2万円コースとしては内容に大きな不満が残るものでありました。料理も良くなければCPも悪過ぎです。

主人は料理を盛る時に使う箸を胸ポケットに都度差し込みます。でもそのポケットにはボールペンも差しているんですね。未だ半分以上の客が残っているというのに、主人がお釣りの硬貨を直接触ったのも私には信じられなかった。衛生観念が欠如しているのではないか。「招福楼」系列の店に美味いものなし、は定説となると考えます。

やはり引き出しが少なかった、カンテサンス

お世話になっている夫妻から「カンテサンス」へ行きたいと言われたのが昨年半ば。ワンパターンの長時間ローストに飽きた私は気が進まなかったのですが、ネットでミシュラン2つ星降格を盛んに噂されていたことを思い出し、降格前に行くのも話のタネかと訪問したのが9月の半ばでありました。結果的には3つ星維持でまたまた肩すかしに終わりましたが、今回の訪問はある意味大変有意義なものとなりました。
ミシュラン調査員の好みであるモダンで軽い調理のはずですが、今回は非常に濃い料理の連続。なんと大食いの私がコースに含まれるチーズに手を付けられなかったのです。

バレているのか今回も希望していないのに通された個室、ボッタルガとドライトマトの一口料理でスタートしました。銀杏入りの茸のスープはかなり濃厚。クラシックなソースを使わず(造れない?)塩、オイル、フルーツのピュレだけを多用する岸田シェフとしては意外な味付けに嫌な予感。続く定番の山羊乳のババロア(オイルと塩)でいつもの料理に戻ったと安心したのです。美味しい、美味しくないは別にして、岸田料理はこれじゃなくちゃ。牛肉の生ハムも変な味わいでカンテサンスらしさを醸し出し、鱧、烏賊とフレンチには珍しい食材を使うのもいつもの通り。しかし次の魚料理で私は再び岸田シェフの意気込みに疑問を持ったのです。カンテサンス=長時間ローストがお約束ですが、その日のノドグロは何とポワレ。皮目をかなり焼いていて半生状態に見える火入れではない。そして肉料理はなんと、和牛テールの赤ワイン煮が登場してしまった。ロースト以外の肉調理が出来るとは想定外で、量が多いだけではなく変に味が濃すぎて食べきるのに一苦労でした。クラシックなフレンチが好きな友里、多くの高額店で赤ワイン煮を食べておりますが、これほど食べにくい(美味しくない)料理は記憶にありません。かくして後のチーズが食べられなかったのです。

後で知ったのですが、リピーターには趣向を変えて煮込みなどを供するようですが、修業先の「アストランス」でこのような調理を習ってきたとは思えません。餅は餅屋といいますか、クラシックな料理を出すのなら、同じパリでも「ランブロワジー」へ再度修業に入ってからにした方が良いと私は考えます。

創作と言うより「やり過ぎ」も目立つ、かどわき

2010年ミシュランガイドで3つ星昇格の情報が早くからネットを駆け巡っていた「麻布かどわき」。昇格を信じてミシュラン発売の直前に再訪した友里は、結果的に2つ星のままで肩すかしを食う羽目となりました。
久々にこの店のコース料理を食べての感想は、やり過ぎ調理も目立つが以前より良くなったのではないか。少なくとも皿の上だけの評価なら、3つ星に昇格した青山の「えさき」より上です。

予約は2週間前でも簡単に入りましたが、当日の店内は満席。いや2回転している席もある繁盛店であります。
まずは銀杏の後、菊菜とトンブリのお浸し。ちょっと味濃いけどまずまずのスタート。スッポンの湯葉揚げはちょっと臭みを感じてイマイチ。造りは隣客とは違うフグ刺しでありました。厚めに引いたというこのフグ刺しに、カワハギの肝を溶いたポン酢が添えられます。
カワハギの肝自体が酒飲みにはたまりませんからこれは掟破りか。当然美味しく感じるのですが、肝心のフグの味わいが記憶に残らなかった。個性派脇役に食われたルックスだけの主演男優と同じ。

脇役の活躍はまだまだ続きます。柳鰈の焼き物に添えられたのはカツオの酒盗に鮎の白子。個性溢れる添え物の旨みのお陰で、柳鰈の存在がまたまた希薄になりました。この脇役なら魚は何だっていいのではないか。定番のウニと蟹の茶碗蒸しにはイカ墨のシャーベットがかかっています。和食でここまでやるものなのか。鰤しゃぶにはゴマ油に塩と山葵を混ぜてたっぷり付けて食べるよう勧められます。鰤も完全に主役を奪われており、ショッパイゴマ油の味が口中に広がりました。
まずまず良かった松茸の焼き物の後、ネットで大評判の「黒トリュフご飯」の登場です。この時期にしてはやけに香りが強い黒トリュフ。ツンと来る人工的な匂いとご飯の不自然な照りを見た連れの料理店関係者はすぐに「黒トリュフオイル使用」と見破ったようです。

高級食材が目白押しのコースで酒類を入れての支払いは2万円台半ば。インパクトある料理の連続で、クラシックな京料理に拘らない人には美味しく感じる門脇劇場。創作料理が避けて通れない「やり過ぎ」に到達してしまった感もありますが、業界人や文化人には大ウケする料理であることは間違いありません。