オー グー ドの賄い料理か、minobi

私は「オー グー ド ジュール」系の店に関して肯定的に書いてきました。本店、日本橋店のフレンチ2店は微妙にテイストを変えた戦術が成功し今でも評判は良いはず。しかし、「東京カレンダー」で新たに3店目が芝にでると知り目が点になったのです。オーグードとしては3軒目となるこの店は、フレンチのテイストを持たせた「和食屋」とのこと。しかもカウンター主体の構成だというのです。なぜ目先を変えて和食を出すのか。なぜ直ぐ新店をだしたのか。調子に乗った、舞い上がった、更なる利益追求に乗り出した、出資者である投資組合の利益配分要求が強まった、などの理由が考えられます。しかし廉価な居酒屋やジンギスカンが凌ぎを削る和食の激戦区である芝の地で、埋没しないものなのか、訪問しての私の結論は「こりゃ駄目だ」となりました。
造り置きの小鉢料理が600円ほど、前菜が1000?2000円、肉などのおかず系が2千円以上とこの辺りではかなり強気の値付け。しかも、一皿のポーションが大きくないので、単品だと3皿は必要で軽く5千円超えてしまいます。酒類も高い。生ビールが800円、ワインはACボルドーが5千円でしたが、その他は1万円以上が主体と高いものしかありません。
肝心の料理ですが、和食の経験があるシェフが造ったフレンチテイストの居酒屋料理はただの「味濃すぎ」。お浸し、筍のフリットの衣、炊き合わせは表面的な強い味つけというか大味。スペシャリテの「いっちゃんハンバーグ」はチーズを乗せてトマトソースがかかっているだけの物。〆の鴨丼(2千円)はタレ濃すぎて正にマスヒロさん好み。あまりにくどい。一皿の量が少ないのを自覚しているようで、ご飯物以外に3皿すすめる方針ですが、土鍋ご飯(1.5合)が900円と二人分はありますから、一人客には向いていません。最終的な支払いは、値付けが高いワインを飲んで2万円近くになりました。ネットのレビューはサクラたちの高評価が目立ちますが、この下町的味付けというか、マスヒロさん好みのシツコイ味と量の少ない料理に値付けの高いワインでは、まともな舌の客のリピートは難しい。オーグードは何を勘違いしたのか、このコンセプトでの出店はあきらかに間違いです。

友里もビックリの他店メッタ斬り、鮨処 すゞ木

TVなどマスコミで持ち上げられている元鮨職人・新津武昭氏。名店と言われた「きよ田」の雇われ主人として有名でした。マスコミからカリスマに祭り上げられた新津氏ですが、彼の弟子だったことをウリにする若手鮨職人も多い。「あら輝」の荒木水都弘氏が特に有名です。そのカリスマ職人の師匠が伝説の鮨職人と言われ「きよ田」初代雇われ主人の故藤本繁蔵氏であります。読者から藤本氏の一番弟子だというこの店の情報を入手し私はすぐ訪問しました。
要町駅から徒歩15分以上、カウンター7席の主人と女将だけの街場店ですが、着席した瞬間から独特の「鈴木劇場」が始まります。鮨タネとは違うツマミを数多く出すお任せがスタートすると、女将はツマミへの拘りや主人の腕自慢をしゃべりまくります。カラスミ、塩辛、鯛酒蒸などが如何に他店と違うのかを力説する余り、主人も加って強烈な他店批判へと発展します。藤本繁蔵氏は60歳で包丁を置いたそうで、新津氏はその時まだ小僧。藤本氏から江戸前仕事は伝授されておらず、鮪の見立てくらいしか能がない、マスコミが勝手に持ち上げている「過大評価職人」だと言うのです。よってその弟子の「あら輝」もケチョンケチョンです。「次郎」もツマミに力を入れないのは回転上げて儲けたいだけ、「弁天山」の主人は築地に月一回しか行っていないなど場外乱闘にも突入しました。「次郎」から独立する弟子やマキシムのシェフがツマミの造り方を習いに来たという自慢話が毎回出るのはご愛嬌か。確かにツマミは独特の味加減。〆物、酢飯もかなり塩を利かせております。酒で儲けるつもりはないと日本酒はタダで持込可ですが、ワインはご法度。鮨にはまったく合わないとワインに執着する「寿司幸」も批判していました。予算はツマミや握りを含んだお任せで最高1万円ですから、タネ質に最上を求めるのは無理というもの。主人たちの口上以外のウリは、サヨリやコハダの細工握りと巻き簾を使わず綺麗に巻き上げる巻物で、その技量だけは必見です。ビールにぬる燗をかなり飲んで1万3千円前後。腕自慢に他店批判の独演会はかなり疲れますが、77歳になる主人は鮨業界の生き字引。ツマミや握り以外にも他店の裏話を楽しめる「鈴木劇場」、好きな人は病みつきになるかもしれません。

あまりに高すぎる創作家庭料理店、割烹 室井

「ダンチュー11月号」を読まなければ、私は無駄な出費をすることはなかったでしょう。「おいしい秋がてんこ盛り」と題する特集の中、天然キノコを出す有名割烹との触れ込みを信じて思わず飛び込んだ友里が甘かった。
10席ほどのカウンターに個室が数部屋。着席して期待は一気に萎んでしまいました。各席には大きい灰皿が常備。カウンター客はオミズを連れた見え見えの同伴カップルやマイナーな業界人の男グループばかり。当然タバコプカプカで、紫煙は店内に充満しています。大笊に盛られたキノコ達もさぞやタバコの煙で燻し続けられ苦しい思いをしていることでしょう。繊細なキノコをウリにする店が、喫煙を許していいものなのか、キノコ料理屋失格であります。
客層が客層ですから、料理はコースオンリー。1万5千円からありますが、一見強面の主人は「お任せコース」(2万5千円)を強く勧めてきます。キノコのお任せは18皿と多皿でしたが、まったく印象に残りません。花びら茸の土瓶蒸、湯葉のキノコ餡かけ、クリタケ甘焚き、紫シメジの白和えのほか、キノコの酢の物、醤油つけ、ソテーなどいずれも家庭料理の範疇に近い。ほうれん草のお浸し、オカラまで出てきますから、割烹というより街場の小料理屋か居酒屋か。お椀といえるものもなく、造りもフグぶつ切りやカワハギ、揚げ物は牡蠣の天麩羅と牛カツで、キノコのソテーのソースをご飯にかけ、〆はキノコのリゾットやパスタですから、まったく和食の真髄に触れることなく終わってしまいます。まったく印象に残らない創作家庭料理。これでビールに日本酒を数合飲んで一人3万5千円近くになるのですから驚きです。何かの間違いかと後日キノコを使わないお任せコースに再度チャレンジしましたが、やはり高級割烹とは程遠く、船場の丁稚の賄い料理だった「船場汁」、白菜のクリーム煮、キンピラに〆はカレーまで登場してしまいました。小鍋料理がまずまずでしたが、その他はタラ白子の天麩羅、生牡蠣、鮑のバター焼きと業界人好みの居酒屋料理。会計はやはり3万数千円と一著前に高額割烹並みの請求に変わりはありませんでした。同伴カップル、業界人と領収書を受け取る経費族専門の高いだけの創作家庭料理店、こんな客層の店へわざわざ行く必要はありません。