「ダンチュー11月号」を読まなければ、私は無駄な出費をすることはなかったでしょう。「おいしい秋がてんこ盛り」と題する特集の中、天然キノコを出す有名割烹との触れ込みを信じて思わず飛び込んだ友里が甘かった。
10席ほどのカウンターに個室が数部屋。着席して期待は一気に萎んでしまいました。各席には大きい灰皿が常備。カウンター客はオミズを連れた見え見えの同伴カップルやマイナーな業界人の男グループばかり。当然タバコプカプカで、紫煙は店内に充満しています。大笊に盛られたキノコ達もさぞやタバコの煙で燻し続けられ苦しい思いをしていることでしょう。繊細なキノコをウリにする店が、喫煙を許していいものなのか、キノコ料理屋失格であります。
客層が客層ですから、料理はコースオンリー。1万5千円からありますが、一見強面の主人は「お任せコース」(2万5千円)を強く勧めてきます。キノコのお任せは18皿と多皿でしたが、まったく印象に残りません。花びら茸の土瓶蒸、湯葉のキノコ餡かけ、クリタケ甘焚き、紫シメジの白和えのほか、キノコの酢の物、醤油つけ、ソテーなどいずれも家庭料理の範疇に近い。ほうれん草のお浸し、オカラまで出てきますから、割烹というより街場の小料理屋か居酒屋か。お椀といえるものもなく、造りもフグぶつ切りやカワハギ、揚げ物は牡蠣の天麩羅と牛カツで、キノコのソテーのソースをご飯にかけ、〆はキノコのリゾットやパスタですから、まったく和食の真髄に触れることなく終わってしまいます。まったく印象に残らない創作家庭料理。これでビールに日本酒を数合飲んで一人3万5千円近くになるのですから驚きです。何かの間違いかと後日キノコを使わないお任せコースに再度チャレンジしましたが、やはり高級割烹とは程遠く、船場の丁稚の賄い料理だった「船場汁」、白菜のクリーム煮、キンピラに〆はカレーまで登場してしまいました。小鍋料理がまずまずでしたが、その他はタラ白子の天麩羅、生牡蠣、鮑のバター焼きと業界人好みの居酒屋料理。会計はやはり3万数千円と一著前に高額割烹並みの請求に変わりはありませんでした。同伴カップル、業界人と領収書を受け取る経費族専門の高いだけの創作家庭料理店、こんな客層の店へわざわざ行く必要はありません。