友里もビックリの他店メッタ斬り、鮨処 すゞ木

TVなどマスコミで持ち上げられている元鮨職人・新津武昭氏。名店と言われた「きよ田」の雇われ主人として有名でした。マスコミからカリスマに祭り上げられた新津氏ですが、彼の弟子だったことをウリにする若手鮨職人も多い。「あら輝」の荒木水都弘氏が特に有名です。そのカリスマ職人の師匠が伝説の鮨職人と言われ「きよ田」初代雇われ主人の故藤本繁蔵氏であります。読者から藤本氏の一番弟子だというこの店の情報を入手し私はすぐ訪問しました。
要町駅から徒歩15分以上、カウンター7席の主人と女将だけの街場店ですが、着席した瞬間から独特の「鈴木劇場」が始まります。鮨タネとは違うツマミを数多く出すお任せがスタートすると、女将はツマミへの拘りや主人の腕自慢をしゃべりまくります。カラスミ、塩辛、鯛酒蒸などが如何に他店と違うのかを力説する余り、主人も加って強烈な他店批判へと発展します。藤本繁蔵氏は60歳で包丁を置いたそうで、新津氏はその時まだ小僧。藤本氏から江戸前仕事は伝授されておらず、鮪の見立てくらいしか能がない、マスコミが勝手に持ち上げている「過大評価職人」だと言うのです。よってその弟子の「あら輝」もケチョンケチョンです。「次郎」もツマミに力を入れないのは回転上げて儲けたいだけ、「弁天山」の主人は築地に月一回しか行っていないなど場外乱闘にも突入しました。「次郎」から独立する弟子やマキシムのシェフがツマミの造り方を習いに来たという自慢話が毎回出るのはご愛嬌か。確かにツマミは独特の味加減。〆物、酢飯もかなり塩を利かせております。酒で儲けるつもりはないと日本酒はタダで持込可ですが、ワインはご法度。鮨にはまったく合わないとワインに執着する「寿司幸」も批判していました。予算はツマミや握りを含んだお任せで最高1万円ですから、タネ質に最上を求めるのは無理というもの。主人たちの口上以外のウリは、サヨリやコハダの細工握りと巻き簾を使わず綺麗に巻き上げる巻物で、その技量だけは必見です。ビールにぬる燗をかなり飲んで1万3千円前後。腕自慢に他店批判の独演会はかなり疲れますが、77歳になる主人は鮨業界の生き字引。ツマミや握り以外にも他店の裏話を楽しめる「鈴木劇場」、好きな人は病みつきになるかもしれません。