シチリア料理専門店だが客層が軽すぎる、ドン チッチョ

連日盛況だった神宮前のシチリア料理店「トラットリア ダ トンマズィーノ」。大家と更新で揉めて今春店を畳んだと漏れ聞きましたが、半年のブランクを経て、10月末に青山学院裏に新規の店をオープンしてきました。店名は「ドン チッチョ」。最寄の渋谷駅や表参道駅から徒歩で15分くらいと立地はよくありません。しかし、前店からの常連の後押しよろしく瞬く間に予約困難な人気店の仲間入りをしてきました。
カウンター8席を含めてキャパは40名くらいでしょうか。大きくなっていますがスタッフ数は増えていないので、満席の店に詰め込まれる客は対応の遅さにいくらかストレスを感じるようです。コースではなくアラカルト対応。一部のヨイショ系副業ライターに評判だが食べきれない量の料理を出しても客が少ない神泉のシチリア料理店「アルキメーデ」とは陽陰分かれたようです。
前菜は約10種で1500円前後、パスタも10種ほどで1700円前後、メインは魚類に白金豚、仔羊、雉などが2500円前後と料理の選択肢はあり3皿フルに頼んでも6千円かかりません。1コースしかない「アルキメーデ」を絶賛している人にぜひ食してもらいたいのがこの店の料理であります。前菜はウイキョウ、松の実、干しブドウなどシチリア定番食材を使った料理が目に付きます。スタッフが各自に取り分けてくれるのでシェアもし易い。品数だけ多くて各料理が一口分しかなく味わいがわかりにくい「アルキメーデ」と違って充分楽しめます。パスタはやはりショート物がいいでしょうか。鮪のほほ肉煮込みや鰯とウイキョウなどなかなか美味しいものに巡り合えました。肉類だけではなく魚の調理法もバリエーションがあり楽しめます。
ワインはシチリア産に限定して3800円から8400円くらいまでと頼みやすい選定と値付け。白、赤とも20種はありますから種類も充分と言えるでしょう。前菜、パスタ、メインの3皿で充分お腹が膨れ、ワインを一人当たり1本飲んで1万数千円。ホールを見回すとワインをそれほど飲んでいない女性客がほとんどで、地方専門料理ではない軽い雰囲気が気になりますが、仕方ないか。
自分で好きな料理が頼める選択肢ある料理を提供する「ドン チッチョ」、予約困難なのは当然であります。

量、食材を考えるとこの支払いは驚異的、一即夛

4年前にオープンした西麻布1丁目の雑居ビル2階、主人と奥さんが切り盛りする10数席のカウンターだけの小さな和食屋です。ネットのブログでCPの良さを知り訪問した友里ですが、支払いでこれほど驚いた店は初めてでした。食べた食材、料理や品数を考えるとかなりに安いのです。「完全禁煙」に徹している点も評価できます。「業界人」が出没する地域でありますが、紫煙を周囲にばら撒く彼らの迷惑行為にあわない店でもあるのです。
カウンタートップには、筑前煮など造り置きの大皿料理が並び、端には干し魚が吊るしてある小料理屋的な店内ですがメニューはありません。着席するとまずはツマミ的な小皿がいくつか出てきます。牛タタキ、枝豆、鯨ベーコン、とうもろこしなど。その日によってアイテムは変わりますが、ビールのお伴にはドンぴしゃり。その後造りが供されます。カツオ、鯛、カワハギ、鮪など種類も多く、質は上とは言えませんがそこらの高額居酒屋と遜色ない、いやそれ以上かも。勿論、本山葵が添えられております。ここまでは定番と言うかお任せ。そして焼き物、煮物、蒸し物、揚げ物などを客が選んで〆のご飯物へと流れます。ノドグロ(赤ムツ)、黒ムツ、柳カレイ、キンキ、アマダイなど魚の種類は豊富。特に東京では見かけないグジ(甘鯛)の塩焼きは美味しかった。同じくノドクロなどムツ類の干し物はやや塩が緩いと感じましたがまずまず。キンキの煮つけ、柳カレイもボリューム満点でした。まだお腹に余裕のある方は、牡蠣フライ、海老フライなどの揚げ物を、それでも未だ食べられる方には牛ステーキが待機しております。和牛か国産牛か輸入牛かを確認するのは野暮というもの。量も充分でそれなりに美味しい肉でありました。そして〆にはイクラ丼も控えております。数種の小料理、造り、焼き物、揚げ物、150グラムのステーキ、丼物をフルに食べ、ビール2杯に日本酒4合で支払いは何と9千円前後。倍の請求を覚悟していた私は腰を抜かしそうになりました。何かの間違いかと再度訪問しましたが、支払額は似たようなもの。「田中屋」、「シンスケ」、「玉久」などの高額居酒屋と同じ支払いで、より高級食材を味良くお腹一杯楽しめる「一即夛」。家庭料理の延長線上の料理ではありますが、おススメです。

立地の妙だけの店ではないが・・・、よねやま

正式店名は「津之守坂 よねやま」というコース主体の小さな割烹風料理屋です。曙橋駅から徒歩で10分。こんな所に和食屋があるのかといった立地の意外性は、早稲田の過大評価店「松下」と同じく下駄履き評価されているだろうと私は予想していました。「霞町 すゑとみ」と共に和食の人気店としてマスコミの露出も多い。特に犬養裕美子氏、浅妻千映子氏などヨイショ一辺倒で料理人とお友達になりたがるライター達が絶賛しているのもネガティヴなイメージを与えてくれます。
店内はカウンター5席にテーブル1卓と個室の小さなキャパ。遅い時刻では単品料理も出しますが主体は1万円のコース料理。しかし最近は1万5千円コースにも手を出して来ました。「すゑとみ」もそうですが、1万円前後でCP良いコース料理を提供していると、必ずより高いコースを再設定してくるものです。これは常連を気取る客達が、もっと良い食材を使った高いコースを食べたい、それでも客は来るよ、と耳元でささやく結果であります。かくしてその悪魔の囁きに従った店は、他店とのCP差や特徴がなくなり加熱人気が収まることになりがちです。都心に1万5千円コースを出す和食屋は珍しくありません。京都ではもっと安い優良店も多いはず。傑出した才能がない限り、身の丈にあった地道な運営が長く生き延びる道なのですが、客やマスコミのヨイショに我を忘れてしまうようです。
1万円コースは小さな3皿の突き出し、お椀、造りからはじまり、焼き物、空豆、ブリ大根と言った地味な小料理が続いて必ずでるという小鍋料理の後、手打ち蕎麦で〆られます。この日の刺身はイカ、ウニ、鯛、椀ダネはハマグリ、焼き物は鰆の西京焼き、小鍋は鯛でした。1万円としては、出汁、食材の質共まずまずで量もありCP悪くありません。しかし5千円アップしたコースを頼んだとしたらどうなるか。当然期待値は上がるわけでして、単に食材を上げ質を上げるだけでよいものなのか。出汁を含む調理の腕も上のレベルを求められるということを料理人たちに認識してほしいものです。立地の妙だけではなく、1万円なら価格に見合ったCP良い料理を出していますが、間違っても常連の甘い囁きに乗って、銀座など都心へ打って出ることも考えてはいけません。