立地の妙だけの店ではないが・・・、よねやま

正式店名は「津之守坂 よねやま」というコース主体の小さな割烹風料理屋です。曙橋駅から徒歩で10分。こんな所に和食屋があるのかといった立地の意外性は、早稲田の過大評価店「松下」と同じく下駄履き評価されているだろうと私は予想していました。「霞町 すゑとみ」と共に和食の人気店としてマスコミの露出も多い。特に犬養裕美子氏、浅妻千映子氏などヨイショ一辺倒で料理人とお友達になりたがるライター達が絶賛しているのもネガティヴなイメージを与えてくれます。
店内はカウンター5席にテーブル1卓と個室の小さなキャパ。遅い時刻では単品料理も出しますが主体は1万円のコース料理。しかし最近は1万5千円コースにも手を出して来ました。「すゑとみ」もそうですが、1万円前後でCP良いコース料理を提供していると、必ずより高いコースを再設定してくるものです。これは常連を気取る客達が、もっと良い食材を使った高いコースを食べたい、それでも客は来るよ、と耳元でささやく結果であります。かくしてその悪魔の囁きに従った店は、他店とのCP差や特徴がなくなり加熱人気が収まることになりがちです。都心に1万5千円コースを出す和食屋は珍しくありません。京都ではもっと安い優良店も多いはず。傑出した才能がない限り、身の丈にあった地道な運営が長く生き延びる道なのですが、客やマスコミのヨイショに我を忘れてしまうようです。
1万円コースは小さな3皿の突き出し、お椀、造りからはじまり、焼き物、空豆、ブリ大根と言った地味な小料理が続いて必ずでるという小鍋料理の後、手打ち蕎麦で〆られます。この日の刺身はイカ、ウニ、鯛、椀ダネはハマグリ、焼き物は鰆の西京焼き、小鍋は鯛でした。1万円としては、出汁、食材の質共まずまずで量もありCP悪くありません。しかし5千円アップしたコースを頼んだとしたらどうなるか。当然期待値は上がるわけでして、単に食材を上げ質を上げるだけでよいものなのか。出汁を含む調理の腕も上のレベルを求められるということを料理人たちに認識してほしいものです。立地の妙だけではなく、1万円なら価格に見合ったCP良い料理を出していますが、間違っても常連の甘い囁きに乗って、銀座など都心へ打って出ることも考えてはいけません。