アイアンシェフ撃沈でも相変わらず盛況、くろぎ

あれは昨年の9月頃だったでしょうか。
数ヶ月に一度通っている「くろぎ」のカウンターで主人から打ち明けられたのが10月から再登場するフジTV「アイアンシェフ」での鉄人就任の話。
道場六三郎さん、坂井宏行さん、中村孝明さん、森本正治さん、陳健一さんなど、まともな外食好きが敬遠する店の料理人が集客維持のために露出する番組だと思っていただけに、数ヶ月先まで予約が入らない盛況な「くろぎ」の店主のアイアンシェフ就任話に、友里は椅子から転げ落ちそうになったのであります。

黙っていても客が押し寄せるのですから、わざわざTVに露出するメリットがあるのか。
リスクだけしかないと思うのですが、断り切れない常連からの要請なのか、はたまた単なる自己顕示欲を満たすためだけの引き受けだったのか。
いずれにしても更に予約が困難になると考えて、できる限りの今後の予約を入れまくって店を後にしたのであります。

フジTVの社運を賭けたといっても過言ではないアイアンシェフでありましたが、結果は敢えなくわずか半年で打ち切り。
5%未満という、ゴールデンの枠ながら深夜番組並みの視聴率しかとれなかったのですから仕方ないか。
しかし黒木店主にとってマイナスになってもプラスになることはなかったのではないでしょうか。
店のカウンター内と違ってTV画面ではオーラの発散どころかどこか自信なさげな雰囲気。

審議委員の結城摂子女史(服部幸應先生と公私ともに仲良い方)からイジメにちかい不自然な批判を受け続けたのもイメージダウンではないでしょうか。
「日本料理界の牛若丸」(でも既に30才代半ばのはず)との別名もついたようですが、半年間での戦績が3勝3敗(道場さんとの大晦日対決含む)ということからも、「くろぎ」にとってはあまり意味がなかったTV露出であったと考えます。

さて数ヶ月ぶりに訪問した4月の献立の主役はこの時期が旬の筍。焼き物や炊き込みご飯で十分堪能することが出来ました。

この店が人気の原因は高額和食を志向している中ではCPが良いと思わせているところ。
オープン当初は9000円弱だったコース価格が店名の変更(以前は「湯島一二一」と共に1万数千円に値上がり、現在は更に高くなったように感じるのですが、客毎に用意されたお品書きに書かれている料理以外の皿が供されるところがお得感演出で客心理を考えた見事な戦略。
主人と2番手(パートナー)の接客も特に女性ウケが良いようで、最近は半年先でないと予約が入らなくなったとの噂も漏れ聞きます。

料理のクオリティを追求し出したら更なる高額化が避けられないのが和食の問題点。
修業元の「京味」の客単価(4万円前後)に迫ることは出来ないでしょうから、常連の高質化要求とどこまで折り合いがつけられるかが、今後の課題と考えます。