あの店は今、松下

拙著第一巻で「立地の妙に後押しされただけの『過大評価』な和食」と評してから、3年ぶりの訪問。相変わらず料理に傑出さを感じませんでしたが、以前には気づかなかった問題点を把握することができました。
カウンター主体でテーブルと小上がりがある店内。夜は8千円、1万円(以上「コース」と称しています)、1万3千円、1万5千円(以上「お任せ」と称しています)の4種の多皿コース。カウンターのある割烹では職人の仕事を見ながら食べたいものですが、「松下」ではカウンターに座れる客は「お任せ」、つまり1万3千円以上を頼む客に限定しています。常連と一見で席に差をつける店はありますが、支払額というのは儲け主義そのもの。
厨房は主人も含めて6名とこのキャパでは余裕の人員。暇だからか主人は客に「絶品です」、「鮮度が違います」、「後に引きますよ」と暗示を掛けるだけで調理はしていません。ホール側にも女性スタッフが二人いるのですが、この店ではカウンター客に料理の上げ下げをさせます。料理人は料理をカウンター上に置くだけ。客がそれを下へおろし食べ終わったら上へ再び置く。客単価数千円の居酒屋でみる対応を1万円以上の高額和食屋が客に要求するのです。他にもビールが温い、酒の価格を表記していない、造りは切り置いて皿に盛ったまま冷蔵庫で保管している、などが気になる点が多かった。
モンゴ烏賊のフライ、だるま烏賊の焼き物など1万5000円のコースに出す食材なのか。鮮度が自慢で生姜ではなく山葵を溶いたという鯵は、醤油の入れすぎで肝心の鮮度がわかりません。ショッパイ。天然鮎にかかっている蓼酢のようなものは変にトロミがあります。ネギを刻んでいるようですが、それこそ鮮度のいい蓼だけの酢にしてほしかった。オムライス、高額和食の〆に出す料理でしょうか。洋食屋に来たわけでなく、賄いや裏メニューでもあるまいし。
この店は料理学校の就職先として人気があるとネットにありましたが、私に言わせるとここで修業しても和食の王道を学べるとは思えません。単なる味濃い料理を少量多皿で出すだけの早稲田の割烹屋。この味付けは業界人や文化人には向いているかもしれませんが、本当の和食好きの方がわざわざ訪問する店ではないと考えます。