県外の客が通うとは信じられない、鮨 渥美

神奈川県には県外にも多くの信者(リピーター)を持つ鮨屋がいくつかあると言われています。新子安の「八左エ門」、長谷の「以づ美」とこの「鮨 渥美」などですが、本当に遠方よりわざわざ行く価値があるのか。銀座の「奈可田」出身、タネは築地ではなくすべて横浜中央市場から仕入れていると知り、私は訪問を決意しました。
しかしそれにしても遠い。港南台駅からタクシーで2メーター、隠れ家的な店を予想していたのですが、バス道路に直接面しておりました。店前に「品書き」はありませんが、掲載されたページを開いた雑誌が飾ってあったのには驚きました。安っぽい印象を与えてしまいます。「信者」で満席を予想していたのに、その日は我々しか客が居なかったのも意外でした。
ツマミから「お任せ」ではじまりましたが、出すペースが早過ぎです。客2名だけなので早く店仕舞いしたいのか。定番の水蛸の煮物はまずまず。ヒラメは縁側がよくなかった。コハダ、スミイカ、アジ、ゲソ、トリガイヒモ焼き、ミルガイ炙りに玉子と、数は多いのですが、矢継ぎ早に出されるのでゆっくり飲んでいられません。握りも赤身、中トロ、ヅケ、車えび、さより、煮ハマ、赤貝、馬糞ウニ、穴子、タイラガイ、干瓢とタネ数もそこそこでレベルは低くないのですがどれも印象に残るものがない。干瓢がかなり甘かったのが記憶にあるくらいでした。主人は「魚屋に僕の気合が伝わるから市場で一番よいネタが仕入れられる」と豪語していますが、神奈川県一番のタネ質とはこの程度のものなのか。出身が「奈可田」ですから、江戸前仕事が強いはずもなく、はっきり言って特徴のない無難な鮨であると判断しました。支払額2万円前後、往復の約3時間(品川からとして)、傑出しないタネ質や仕事、を考えると県外というより近辺以外からわざわざ通うほどの価値は見出し難いというものです。ツマミ、握りとあっという間に終わったので、遠方ながら帰宅時刻が遅くならなかったのが唯一の救いでありました。