銀座好きは寿司屋の主人だけではないようです。80年後半から長く恵比寿近辺でフレンチを営んでいた宮代潔氏が、この歳で銀座を目指すとは思わなかった。
弟子に厳しく厨房からシェフの怒鳴り声がホールに響き渡るとまで言われた強面シェフ。オックステールの赤ワイン煮を代表に彼の造るクラシックな料理自体を認める人は多かったけど、サービス含めた総合評価がパッとせず、最近はマスコミへの露出も皆無に近かった。銀座への移転を知って友里は久々に訪問したのです。
ビル6階に8席のカウンターと2名掛けのテーブル2卓という小キャパに、スタッフはシェフとマダム(奥さんではない)だけ。人件費を節約したのか、弟子が逃げ去ったのかわかりませんが、調理一人体制で客は大きな制約を受けることになりました。
コース1本(8800円)で、メインは6種から選択できますが、予約単位(2名以上何人でも)で選べるメイン(事前予約)の種類を2つに限定しているのです。
その日のアミューズはパルミジャーノの薄焼き。今時ありふれていて拍子抜けしました。フランス産のホワイトアスパラはオレンジ風味のオランデーズソースで王道と言うより凡庸なだけ。
冷製の蚕豆スープは逆にフォアグラのフランが入っていて濃厚。やっと昔食したクラシックな宮代料理を楽しめると気を取り直してウリのスペシャリテ「オックステールの赤ワイン煮」(2500円追加)を待ったのです。
果たして15年ぶりに食べたこの料理、酸っぱいだけでツメも緩く完全な期待はずれ。使用する赤ワインのレベルが低いのではないか。連れ達が頼んだ「牛フィレ肉のロッシーニ」(4000円追加)も、春トリュフを最後にスライスするだけで濃厚さを感じません。「イノ」の方が遙かに美味い。
厨房一人の限界で調理法が限定されるだけではなくクオリティも保てないとあっては、昔からの常連客もガッカリではないか。ノンヴィンシャンパンが9300円、スティルワインも8000円台からと予想より値付けが高くないのが唯一の救いです。
ディープでクラシックなフレンチが好きな人が満足すると思えず、さりとて今風のフレンチを食べ慣れた人も満足するとは思えない、どちらの客層にも中途半端で微妙なフレンチと考えます。