山本益博氏が最近まで不自然に絶賛していた「虎ノ門 青柳」。ミシュランガイドに掲載されないのが不思議だと、まるで名和食店のように持ち上げておりました。確かに店主の小山裕久氏の腕は私も認めるところ。鯛などの包丁仕事や鮎などの焼き技術には以前から感心しておりました。3人の弟子が星を8つも獲得していることでも、職人としての技量だけは証明されております。
しかし店経営となるといかがなものか。「バサラ」多店舗展開の他、六本木ヒルズにも進出しましたが閉店の連続。徳島の本家も実質的には大塚製薬の傘下に入ってしまった。東京もこの旗艦店である虎ノ門店と三田にある「ばさら」の2店だけになったのですが、「虎ノ門青柳」が3月一杯で閉店すると聞き私は久々の再訪を決意したのです。末日ではなく実は19日で閉めると言われ、我々の訪問は前日の18日昼となりました。
閉店を惜しむ常連で店は溢れかえっていると思っていましたが、何とその日は我々2名の貸切状態。勿論店主小山氏の姿はなく、HPではいくつかのコースがあったのに何の説明もなくお任せがスタートしてしまいました。
三つ葉のお浸し、筍の木の芽和えは凡庸。お椀は海老真丈でしたが出汁が酷い。濃すぎて薄口醤油の味しかしない素人レベル。造りは自慢の鯛でしたがなぜか昆布〆。徳島からの直送をうたっていたはずですが、閉店前日で客も少なく仕入れを怠ったのか。続くヒラメもよくまあこんなに旨みのないものを仕入れたと逆の意味で感心してしまいました。
煮穴子寿司や居酒屋レベルの八寸(タコの小豆煮など)もダメで、ポーションだけ大きかった鯛のかぶと煮も養殖と見紛う質。しかも出汁が甘すぎて食べられた物ではない。
〆はわずかな白魚(3匹しか確認出来なかった)を使った玉子丼。ここは定食屋だったのかとはじめて知った次第です。
香の物の干からびた胡瓜を食べ、果物とわらび餅で終わった「お任せコース」の支払いがなんと3万1000円前後。ビールに日本酒を飲んだとは言え、この食材と調理ではCPは最悪。
店側は道路拡張で建屋取りつぶしによる一時的な閉店と説明しますが、他のテナントは1年前に撤退済みです。この時期になっても移転先が未決ですから小山氏は再開を諦めたのでしょう。彼の最後の英断には星1つです。