酢飯は緩いがツマミが充実している、すし 椿

ここ数年、銀座や六本木、西麻布で鮨屋の出店ラッシュが続いていますが、この店も昨年オープンしたばかり。鮨オタクは見かけませんが、接待系や同伴系の客で盛況です。
出資者は別なのに、店名に自分の苗字をつける自称オーナー職人が多い中、この「椿」の若い板長は雇われであります。いくつかの店で修業したといった経歴も、最近の若手職人のお約束。一つの店に縛られることなく、何軒もの修業先から職人仕事を良い所取りで身に着けられるわけです。和食ほど覚える技術が多くないのは当の鮨職人が自覚している事実。鮨屋での修業経歴ゼロをウリにしていた「鮨 なかむら」が順調に運営されているくらいでから。仕入れるタネ質に拘り、手間を惜しまない江戸前仕事に専念すれば、マスコミが煽って作り出した鮨ブームの現在、集客は計算できるのです。
店内は余裕の配置で、板長が仕切る大きな檜のカウンターの他、別室にもカウンターがあるなど豪華。2人の女性スタッフに、和装のオーナーマダムも待機していますから、固定費はかなりのものと推測。よって高めの客単価を目指す為に、ツマミに力を入れた方針をとっております。乾された多数の自家製カラスミがあるつけ場。普通の鮨屋には見られない光景であります。
お任せでツマミから入るとかなりの酒肴が供されます。ヒラメや鮪、〆さばといった鮨タネだけでなく、この店独特のツマミも面白い。山葵につけた明太子、蒸たてのアン肝、スルメイカのワタの味噌漬けなどはお酒が進みます。炙り鯖、鰤のヅケ、玉子焼きも江戸前以外に出汁巻きもあるなど、ツマミの種類は10を軽く超えます。初回の訪問ではそのツマミの充実がすごく印象的な割に、握りの記憶がありませんでした。ツマミにくらべて握りに主張を感じなかったのです。酢飯がかなり緩い。酢や塩を控え砂糖を少し入れた酢飯は、何貫でも食べ疲れしないと味のわからないフードライターが雑誌に書いていましたが、緩い酢飯は食べ疲れる前に食べ飽きてしまうのではないか。オミヤとして太巻き(これが結構美味しい)を用意するなど接待客に絞った運営が功を奏して今のところ順調なようですが、客単価は2万5千円前後。競争厳しい銀座では、握りの充実をはるべきではないかと考えます。