鯛飯屋が天麩羅を出しているだけ、与太呂

ミシュランが星1つを献上した天麩羅屋「六本木 与太呂」。未曾有の不景気の現在はわかりませんが、初訪問時は盛況店でありました。家族経営で主人と女将、そして長男夫婦も人当たりがよく予約電話の時も気持ちが良かった。友里征耶の定説に「性格の悪い料理人の店に美味いものなし」がありますが、「性格の良い料理人の店でも美味しくない場合がある」のは仕方がないことか。躊躇しましたが、そこはミシュラン掲載を承諾した公の店、感じたことをズバっと書かせていただきます。
L字型のカウンター18席と天麩羅屋としてはかなり大箱。隣客と肘が干渉しますから詰め込みすぎです。料理はコース(1万3650円)1本でありました。
まずは牛の握りが突き出しとして2ヶ。酢飯は赤酢でしっかりした味で、滅多にこの手の握り(牛)を食べませんが、悪くはなかった。続いてこの店のウリである「鯛」の造りが登場します。チリ酢、ポン酢、醤油で食べるこの鯛、ミシュランでは「天然」とありますが、旨みに欠け脂っぽいのが気になりました。でも天麩羅屋の刺身としては悪くはありません。そして次の天麩羅を見てしばし唖然となりました。海老のすり身を挟んだトーストは銀座の「由松」や「京星」と同じ。キスも小さいものを開いてから身を重ねて揚げるのも同じ手法なのですが、薄い膜を1枚被っているというイメージの衣、目が細かいというか、ヌメっとしていてカラッ揚がっておりません。火力の弱い家庭で揚げた天麩羅に似た感じなのです。しかも種類が少ない。トースト、海老(3尾)、キス、レンコン、烏賊、椎茸、茄子、インゲン、小タマネギだけで穴子やかき揚げなどがないのです。天つゆがなく塩しかなかった理由が天麩羅を終了してはじめてわかった次第です。最後の土鍋で供される鯛飯は良かったのですが、全体の総量も少なく食後感はイマイチ。
天麩羅は都内の有名店と比べるのが可哀想。鯛飯を出す天麩羅屋というより、天麩羅を出す鯛飯屋と言った方が、座りが良いのではないでしょうか。天麩羅自体ではなく、接客など主人たちの人柄を全面に、常連や口コミの客だけで露出を抑えた方が、私は存在価値があったと考えます。家族経営の店だけに、ミシュラン掲載を断る勇気を見せてもらいたかった。