訛った突っ込み連発のお笑い劇場、やまいち

銀座4丁目、並木通りのカウンター8席のこの鮨屋は、主人と女将と弟子一人で客単価2万円以上を狙った高額店であります。私は「トーキョー スタイル」という雑誌の2ページ使った紹介記事を見て昼夜訪問しました。注目したのが、「寸止めの江戸前仕事」と「〆ものは客が来てからはじめる」というキャッチ。よくフードライターがお椀の出汁の褒め言葉で使うこの「寸止め」。出汁の味わいがどう寸止めなのか恐らくライター本人も説明できないと考えますが、主人からも明確な説明はありませんでした。コハダなど〆物は確かに客に出す前に酢で洗っていましたが、塩振りや酢の本〆は既に処されておりました。雑誌の煽りキャッチを真に受けた友里が甘かったということです。
茨城県ひたちなか市の「照寿司」を閉めて数年の充電期間をおいて銀座へ進出してきた主人に女将。その地で客単価1万円を超えていたと言いますから、客がそう入っていたとは思えません。噂では円満閉店ではなかったとも聞きますが、銀座のこの店は観音開きの氷冷蔵庫に流しっぱなしの小さなシンクと最近の流行を取り入れた割と豪華な内装。良いスポンサーがついたのでしょうか。
前日までに予約すれば昼も営業しますが、今のところ昼夜とも客少ない店内では、茨城訛りの主人の声が響き渡ります。女将との掛け合いのほか、客への突っ込みも頻繁で、緊張感など無縁の鮨屋、というよりお笑い芸人のトークを聞きに来ているようなものでした。昼は1万5千円超、夜はトーク代も入っているのか2万5千円を軽く突破と支払額はかなりの高額。ツマミが何点かついているとはいえ、「茨城弁劇場」を考えてもやや高めなので、最初は昼の訪問をオススメします。
肝心の鮨の事を書き忘れるところでした。この店の特徴は酢。赤酢と黒酢に砂糖が少し入っていると思われる酢飯は、しっかりした味わいで「水谷」とは違った主張をしております。結構友里の好み。生姜も甘からず辛からず、鮪を含めてタネ質も上レベルに入るでしょう。握りには、やや甘めに感じる煮切りとツメの他、炒り酒もタネによって使用するなど面白みもあります。しかしツマミは、焼き物が若い衆の技量の限界なのかベチャベチャ、焚き合せも凡庸と期待はずれだったのが残念です。最近は「椿」など創意工夫したツマミを充実させる鮨屋が増えているだけに、この夜の請求額ではCPが悪く感じてしまいます。主人のトークは別にして、ツマミの質を上げれば、このタネ質、酢飯、仕事振りと悪くないだけに客が増えると考えます。