鰻屋にしては料理が多すぎる、いちのや 西麻布店

流行っていなかった和食屋跡に出来た一軒屋の鰻屋、いちのや。私は「やらせ」のTVを見るまで、この鰻屋の存在をまったく知りませんでした。2年前の年末だったと記憶しております、ホテル西洋銀座で行われた一人100万円のディナー(宿泊費別)の放映。世界的に有名なワイン評論家、ロバート・パーカー氏の出版記念として、彼が選んだ究極のボルドーワイン12本と、有名シェフ、ロブションが食材に糸目をつけず調理する料理が出ると言っても、100万円は余りに高いのではないか。同時期、同価格で恵比寿の「ジョエル・ロブション」でも企画されましたが諸般の事情で中止になったくらいですから、参加者を集めるのは大変だったようです。この「究極の晩餐会」、番組の後半は参加者をレポートするもので、その一人が「いちのや」の若き主人だったと言うわけです。取材に応じる条件だったのか、参加者が集まらず頼み込んだからか、しっかりこの鰻屋を番組で紹介していましたから、仮に主人が100万円払ったとしても充分元が取れたと考えます。
川越や神泉にもあるという「いちのや」、レトロな内装で外観は悪くないのですが、テーブルに常備されている灰皿、席で携帯使い放題の客、と環境は良くありません。鰻重が2800円以上と他の有名処より強気の価格設定で、鰻が入る会席コースが7500円から1万5千円まで用意されているなど、ただの鰻専門店とは違います。しかし、居酒屋メニューのもずくや秋刀魚から、高額和食の鱧、石鯛まで扱う間口の広さに私は疑問であります。和食屋が鰻を出すならともかく、鰻屋が出す高額食材を鰻屋の調理技術で食べて満足できるでしょうか。単品専門店と和食では技術のベースが違うのですから、ここでは鰻だけを味わった方が無難であります。さて肝心の鰻重。オーダーしてから50分近く待たされます。会席コースでも、料理の順番に関係なく鰻が焼けたら直ぐ出すそうですから、マイペースな経営です。待ち時間に食したうざく(900円)、この鰻だけどうして早く焼けるのか疑問でしたが、まったく凡庸。肝焼きも普通レベルで、待ちわびた鰻重は蒸し過ぎなのかただ柔らかく、タレも甘すぎ。秘伝のタレといってもベースは醤油と味醂の調合だけですから、このうたい文句に乗せられてはいけません。野田岩よりも柔らかいかもしれない食感のない蒲焼、もとい、「蒲蒸し」に値付けの高い日本酒と二三のツマミを頼んで軽く5千円突破。高額店の養殖鰻に差があるわけではないだけに、わざわざ行く必用はないと考えます。
注)
掲載後、「いちのや」の主人からクレームがあったそうです。公平を保つため、先方の言い分も載せさせていただきます。
「鰻屋が出す高額食材を鰻屋の調理技術で食べて満足できるでしょうか」に対して、「ウチは4人の和食専門の調理人を雇っている」
また柔らかすぎる鰻重について、「これは当店独特の技術だ」
そして、100万円ディナーTV出演の件では、「あれはテレビ局に頼まれ、引き受けただけ。自分から売り込んだわけではない」
鰻がウリの店で、和食専門の料理人を常時雇っていては、固定費がさぞかしかかることでしょう。CPは当然落下すると誰でも感じてしまいます。
柔らかいのは「蒸し」を強くしただけだと思うのですが、これを独特の技術というのでしょうか。
確かTVでは、100万円ディナーの参加者を、帰り際任意に声をかけて取材すると言うスタイルでした。
自宅拝見の後、本業を聞いて店の紹介をしていましたが、「頼まれて(出演を)引き受けた」となると、あのTV番組は完全な「やらせ」だと認めることになります。TV局としてはこうはっきり宣言されたら困るんではないでしょうか。