話のタネに1回の訪問で十分、中村玄

今回は食べログではなくヨイショ系店紹介雑誌「東京カレンダー」の鍋特集で釣られてしまった自称心中国料理店。
恵比寿駅近くのアパートみたいなビル一室にあると聞いて嫌な予感がしたのですが、辛いもの好き、鍋好きの嗜好とミーハー心を抑えることが出来ず、友里は足を踏み入れてしまったのであります。

チープなドアを開けて中に入ってビックリ。店内は油のミストで充満していて目がしみそう。
えらい店に踏み込んでしまったと後悔した瞬間でありました。

若い男女が大騒ぎしているテーブル席を横目にカウンター座ってまたもや唖然。隣に座る常連客らしきグループの一人がタバコを吸っているではありませんか。
食べログやぐるなびの店データでは、カウンターは禁煙となっていただけにこの特別扱いはいかがなものか。
拙著「堕落のグルメ」(角川SSC新書)でも述べておりますが、常連客のワガママが店をダメにするという典型例でありましょうか。

この店のウリである「麻辣香鍋」(1800円)の前にまずは1品料理を2皿オーダーしました。
ハネ付き焼餃子(6ヶで600円)は、そのうち2ヶが辛い餃子が混じっているとのこと。ロシアンルーレットのようなお遊び企画でありますが、見ただけでそれとわかるものでして(色目が違う)、しかもそんなに辛くはない。
これならもっと餃子自体を美味しく工夫しろと友里は訴えたい。

続くは黄金マーボ豆腐(1200円)。確かに本格的な四川風マーボと違って色が薄い(黄色っぽい)ですが、花椒の他に生姜の変な辛さがミスマッチの代物。
ツメが緩く辛いだけで旨みは皆無に近かった。店の説明では黄色豆板醤というものを使っているとのことでしたが、普通の豆板醤でよいからもっとまともなものを提供していただきたかった。

そしていよいよ本日のメイン、麻辣香鍋の登場です。
食べログによりますと、10種以上の旬野菜の素揚げ(東カレでは20種以上になっていた)とお好みの材料をたっぷりの朝天唐辛子とオリジナル火鍋醤で一揆に炒めた汁なし火鍋とのことでしたが、鶏モモとキノコをトッピングしたにもかかわらず、唐辛子の辛さだけでオリジナルという火鍋醤の実力を感じることは出来なかった。
味にまったく深みがないんですね。後から知ったのですが、食べログのレビューでは「一度行けば充分かも。」とありましたが、まったくその通り。
いや一度だけの訪問で十分というより、飽きが来てしまって自称火鍋(実際は単なる炒め物を鍋に入れただけ)をその夜すべて食べきるのが苦痛でありました。

隣のカウンター喫煙客の火鍋は最初から麺がはいっていたので店のスタッフに確認したのですが「麺類は最後の〆での追加注文」とのこと。
なぜ隣客の炒め物には最初から麺がはいっていたのか。禁煙場所での喫煙許可(灰皿を出していた)といい、廉価な店でのあからさまな常連特別待遇はいかがなものか。
居酒屋レベルでソワニエ扱いされて何が嬉しいのか、友里一行には理解しがたい居酒屋風自称中国料理店でありました。