「旬香亭デ・メルカド」で模倣エル・ブジ料理を出していた料理人が独立して出した「山田チカラ」。何と茶の湯に目覚めたとかでスパニッシュから茶懐石への転向です。しかし、フレンチからスタートして最後は「エル・ブジ」で修業したと聞く山田力シェフ、和食をどこで勉強したのでしょうか。
麻布十番駅から徒歩10分以上、茶室と掘り炬燵式のカウンター8席の主人と女将の小さな店。料理は1万2000円1本で、日付と主人の署名入りのコース内容は、一ケ月前東京カレンダーに掲載された記事と6皿(全11皿中)も重なっておりました。
女将が最初に出してきたのは「おしのぎ」。折敷に飯、汁、向付が並べられています。飯と汁を飲まなければ酒類を出さないという懐石の作法を真似ています。その後女将が注いでくれたのが「バラのマティーニ」。これも立派な11皿の一つですが、匂いがバラと言うよりまるでトイレの芳香剤のようでした。スプーンに乗った一口料理の生ハムメロンは見た目の奇抜さだけのもの。造りはサイコロ状に切った鮪にウニ、鱒子、海老を醤油のヌーベで供されます。刺身を引く技術は和食の生命線ですが、サイコロ状にするとはその基本を踏み外す愚行。和食を知らない外人が考え出した醤油のヌーベもヒネた味わいで刺身に合いません。お椀の代替の粉末フォアグラに温かいコンソメをかけた「キノア」、液体窒素を使って粉末にしてしまったらフォアグラの味なんて感じません。しかもコンソメは業務用のように味が濃かった。二種選択のメインの一つ佐賀牛ステーキはまだ良いとして、もう一方のタンの煮込みは甘酸っぱすぎて半加工品のような食後感。冷蔵庫にはキューピーの冷凍卵白のパックがありましたから、業務用品を使用するのに抵抗感のないシェフであると考えます。
11皿中、早松と鱧のフリット、鱸のポワレ(火が入り過ぎてNG)、五島饂飩と3皿にトマトソースを使う偏りはいかがなものか。和洋折衷な和食もどき料理に値付けの安くないワインを頼んで一人2万数千円の支払いはCPあまりに悪い。妖艶な女優や編集者のヨイショでご満悦なデザートライターを見かけたことからも、味がわからない業界人専門のお店と判断。わざわざ訪問する店ではないでしょう。