賞味期限は短いだろう、タツヤ・カワゴエ

イタリアンのプリンチペ(王子様)と言われている川越シェフ。Who is 川越 ?と疑問を持たれる方も多いと思いますが、ある女性層には絶大な人気があるとか。友里も「東京カレンダー」(以下「東カレ」と略す)の愛読者でなかったら彼の存在を知ることはなかったでしょう。昨年から特別待遇の掲載連発。あの学芸大学の有名イタリアンが広尾に移転、とありましたが本当に有名だったのか。うまく「東カレ」のライターを丸め込んだとの噂を聞きますが、川越シェフは「カノビアーノ」の植竹シェフと同じくイケメンで売れるタイプなんだそうです。「辻調」をでてから大した修業歴なくいつの間にか有名シェフに祭り上げられてしまいました。大家との契約問題から恵比寿店をクローズ、代官山へ移転したと言われていますが、漏れ聞くところ色々裏があるともいう話。私は「東カレ」で、内装工事現場にコックコート姿でポーズをとっている川越氏の写真を見て、勘違いしたシェフを確認に代官山店をすぐさま訪問しました。
店内は正面が半オープンキッチン。プリンチペが笑顔で迎えてくれます。カウンターはなんと2席だけ。ホールはパーティションで仕切られて各テーブルが半個室のように区切られていました。料理は前日までに予約のお任せ1万円の他、7500円と5500円の3コース。一番安いコースが前菜7皿とパスタでメインはなし。7500円は前菜が3皿にパスタとメイン。高いコースの方が、前菜が少ないのが変わっています。前日予約のお任せコースはドルチェを入れて10皿。しかしその内容がひどい。各前菜は当日オーダーのコースとほとんどダブっているのです。要は、7種の前菜を用意しておき、それを3コースに使いまわしているだけ。テーブル間の仕切はその仕掛けを客に見せない為のようです。内装は凝っていますが、料理は凝っていません。穴子のマリネや水ダコはデパ地下物との差を見出せないレベル。コンソメジュレやジェノヴァソースも業務用と大差ない味。イカ墨のリゾットも生米から造ったものなのか疑問。メインの和牛も美味しいものではない。ワインリストも貧弱でたいしたワインがありません。料理ではなく川越シェフ目当ての女性客はボトルを頼まないのでしょう。良く言えば「わかりやすい味」、はっきり言えば「セントラルキッチンの味」のイタリアン。噂では川越シェフは既婚者だというのを隠しているとの話も聞きますが、料理店は顔面ではなくやはり料理が大事。この料理では早晩飽きられてしまうと私は予想します。

大阪割烹の限界か、本店浜作

東京で最初のカウンター割烹、政治家や財界人御用達の店、と聞いて期待していたのですが、店内は居酒屋のような喧騒さです。テーブルでは雄たけびを上げる初老5人組。カウンターでは周囲の目や耳を気にせず妙齢のキャリア女性を口説き続ける年配常連客。JFKだ、ニュージャージーだと海外慣れを気取っているのですが、冷静な他人が聞くと滑稽なだけ。どうやらこの店で自腹の客を見つけるのは難しいようです。10月下旬に出版予定の共著で取り上げようと訪れたのは初夏の頃。良く言えば老舗、はっきり言えば賞味期限切れの「今浦島」的な店が大好きな共著相手のJ.C.オカザワ氏の推薦だったので、料理は元々期待していなかったのですが、客層や雰囲気がこれほどとは想定外でした。テーブルには最初から灰皿が用意されている、経費族御用達の居酒屋風割烹料理屋であります。
先付けの滝川豆腐。接客係りのお婆さんに「全部飲んで」と言われましたが出汁が濃すぎて無理。辛目の梅肉に合わせる鱧の落しは凡庸、鰈の刺身は熟成感が出すぎでした。大き過ぎる蛤の「はますい」は質がよくないからか出汁も大味で美味しくない。沢煮椀はこの店のウリモノらしくかなりのオーダーを受けていましたが、追廻が赤いキャップの瓶入りの粉を仕上げに振り掛けておりました。おいおい、もしかしてそれは「味塩こしょう」ではないのか。客前でアミノ酸系調味料に見られやすいものを堂々と使っている神経に驚きました。厨房内にはケチャップも置いてありましたが、あれは賄い食限定なのだろうかとの疑問も沸いてきます。オープンキッチンなのですから細心の注意を払っていただきたい。太田川の天然鮎の塩焼きは、業務用のガス焼物器の限界か焼き方の腕が悪いのか、蒸し焼きに近いものでした。せっかくの天然鮎が台無し。もう一つのウリである鰈の煮下ろし。から揚げした鰈に出汁とオロシ、そしてレモンをかけた一品です。造りよりも質を落としているのか身に旨みを感じず、出汁はレモン負けしているようで酸味が立ちすぎでした。以前は「浜作」を名乗る店が銀座に3店ありましたがいつの間にか淘汰されこの1店だけ。踏みとどまっているようですが、これが大阪割烹の限界なのではないでしょうか。一人当たり2万数千円の支払いを考えると、京料理と比べるのは酷かもしれませんが、同じスタイルの店、例えば「阪川」とは雲泥の差の食後感。高級和食を得意としないオカザワ氏も、私の評価を気にしたのか、新著で取り上げることを断念した次第です。
最後に。
日刊ゲンダイにこの記事を掲載後、本店浜作から以下のような連絡が入ったそうです。
「本店浜作では、化学調味料は一切使っておりません。赤いキャップの中のものは、「味塩こしょう」ではなく「胡椒」であります」
私は造っているところを見ただけで味わっていないので味塩が入っているかわからなかったのですが、店が違うと言うので間違いないでしょう。ただ、本文中にも書きましたが、ちゃんとした胡椒であるならば、誤解を受ける容器に入れることをしないほうがいいと思います。味塩を他の容器に詰め替えて使用を隠すならわかりますが、わざわざ誤解を受ける容器を使うのは意味がないからです。