「情熱のシェフ」読了

苦しい数日間でありました。「箸が進まない料理」というのがありますが、「ページが進まない本」とでもいうのでしょうか。大仰な美辞麗句だらけながらまったく引き込まれることのないその文章力、筆者に物書きの教えを請うてしまったら読者の数が激減することでしょう。
ここまで取材対象にのめり込んで取材対象者の口上を何ら検証せずに書いてしまう神山典士氏、タレント本を請け負う「ゴーストライター」のようなレベルに思ってしまいます。
彼は架空ではなく実在する人物を取り上げているので何を書いても「ノンフィクション」だと主張するのでしょうか。

ノンフィクションの読者がノンフィクションというジャンルの本に求めているのは、たんなる「事実」の羅列ではなく、「事実」の裏に埋もれてしまった「真実」なのだ。

http://www2u.biglobe.ne.jp/~BIJIN-8/fsyohyo/kak_band.html
から引用した一文です。
この本は松嶋啓介という実在のフランス1つ星シェフの口から聞いた話を素にしている点は松嶋氏の話としては「事実」。しかし、何ら検証もせず矛盾する論調をそのまま垂れ流しているので、「真実」の追求はまったく見られません。
松嶋啓介、かなり上昇志向のある、そして出世欲ある人だと思います。若くして「多店舗展開」を目指す料理屋(敢えて料理人とは言いません)に真の客を喜ばしたいという志があるのでしょうか。
矛盾点やいい加減な発言が盛りだくさんなので、いくつか挙げてみます。松嶋氏の発言が「事実」なら彼の性格の一端、いやかなりの部分がわかると思います。
1、 僕がもし日本で店を出すなら、この一皿はつくりませんでした。
彼のスペシャリテ「牛肉のミルフィーユ ワサビ風味」の事であります。日本では鉄板焼き屋へ行けばもっと美味しい薄切りステーキが食べられる、日本人を相手にするなら本山葵でなければ納得しない、とうっかり言ってしまっていますが、神山氏は2006年春のフォーシーズンズホテルでの凱旋フェアで松嶋氏の料理を食べたのだろうか。しっかりこの鉄板焼き屋より美味しくない料理が出ておりました。
彼を有名にしたウリの料理なので、凱旋フェアには欠かせなかったのでしょうが、それなら本でのこんな高慢な発言、カットするべきでしょう。凱旋フェアに行った客を舐めております。
来年春に青山へ店を出すようですが、この鉄板焼き屋より美味しくない料理を出すのかどうか、見物であります。
2、青山とニース、同時に市場に行けないぜ
松嶋氏は毎朝市場へ出かけ、食材を見ながらインスピレーションを働かせてその日の料理を考えると言っています。市場に行かないシェフが多いと嘆いております。
読者に訴えるには非常にひびきの良い言葉ですが、本当にできるのか。青山店とニース店、半年ごとに閉店、開店を繰り返すとでもいうか。体は一つです。おそらく青山店を任せるシェフに築地へ行かせるのでしょうが、それでは松嶋氏のインスピレーション溢れる料理になりません。渡したレシピ通りにさせるのか、雇われシェフのインスピレーションに任せるのか。雇われシェフのインスピレーションでは「松嶋料理」になりません。
どちらにしても松嶋氏の発言に基づく料理は多店舗では無理であります。
3、調理場に籠もらずフロアへでる?
フロアで「メルシー」と言われることが一番嬉しいとゆうとりますな。
しかし、凱旋フェアでのランチでは、取り巻きや知り合いのテーブルしか回っていませんでしたし、最終ディナー(最終日の前日)では彼の姿が確認できなかった。せめて凱旋フェアの時だけでも厨房やホールに居てほしかった。色々と付き合いが多いから断れないのかもしれませんが、これから日本や世界へ展開する野望があるんでしょ。
だいたいニースと青山、同時に両方のフロアには超能力者でないかぎり立てません。
風呂敷がでかいというか、大言壮語の感がある松嶋シェフ。すぐに2つ星とるとか数年で3つ星だ、スペインへ出店する、とも言っていましたが、その後どうなったのでしょうか。
しかしこの若いときから商売根性丸出しの若人の発言を何の検証もせず垂れ流している自称ノンフィクション作家の神山典士氏。リップサービスの本場、欧州のシェフ達の松嶋賛美のコメントを取っていますが、ノンフィクションライターなら、就労ビザの取得の件で騙された、と松嶋氏が主張するエクス・アン・プロヴァンス(フランス人は「エクサンプロヴァンス」と発音するらしい)の1つ星シェフの取材とコメントを載せるべきではないか。ここまで立身出世の「大河物語」を作り上げるなら、裏もとっていただきたかった。
最後に。神山氏は友里に対し、ペンネームで安全なところからの批判は卑怯と述べていますが、私の実態は批判の対象になった店関係者はみなご存じのはず。勿論訴訟も受けていますし、料理人からの呼び出しにも、暗闇でなければ会う場合もあります。現に面と向かって脅迫を受けたこともありますし。ペンネームで陰に隠れて批判しよう、なんてケチなことはまったく考えておりません。訴訟や脅しが怖ければとっくに引退しております。
それよりあなたたち「実名ライター」の方がまったくリスクがないではないか。癒着本、ヨイショ記事、過大評価、店宣伝(料理人宣伝)ですから、百万が一にも訴えられるリスクがない。世に実力以上に褒めてくれた人に文句をいうアホがいるか。
この場合の被害者は一般読者であります。ひどい店、高慢な料理人を薦められたわけですから。しかし、一般読者は訴訟やクレームと言った面倒なことができません。「所詮食べ物」だからと泣き寝入りするしかない。
つまり、一般読者が訴えることが出来ないのをいいことに、ヨイショで過大評価して店宣伝している評論家やライター、本が出せそうな取材対象に寄生して一般読者の為にならない癒着本を出しているノンフィクションライターの方が私は卑怯であると思います。それを見越してヨイショ、宣伝、癒着を繰り返す彼らには訴訟や脅迫をうけるというリスクはなく、クレームなども想定外であるからです。
実名での過大評価、店宣伝に癒着本と、ペンネームでシビアな評価。一般読者には「店や料理人の手先の実名」と「一般客の目線のペンネーム」のどちらが必要か、まともな方にはご理解いただけると考えます。
http://www.the-bazaar.net/
でもこの友里のブログ読んで、この本買ってしまう人もいるんでしょうね。私も癒着本の宣伝に一役買ってしまいました。 

今年になって訪問した店 短評編 11

奇跡のレストラン「カシータ」に関する情報を多くの方からいただきました。
ここにあらためて御礼申し上げます。
まとめさせていただくと、サプライズサービスを全面に出しているお店。料理が美味しいという話はまったくないようで、店のHPでも料理の拘りについては何の表記もないようです。
1回の訪問でスタッフから自分の名前を何十回も呼ばれる、ナプキンに自分のイニシャルが刺繍されていた、名刺交換したらデザートの皿に会社のロゴをチョコで書いてきた、など、どちらかというと料理の旨いまずい、CPの良し悪しなどを問題にしない(味がわからない)自意識過剰な自称セレブ系の客をターゲットにしているようです。
早い時期に訪問してみたいとますます思うようになりました。
さて訪問3店です。
レイ家菜
空いていますね。この日も他に客があったかどうか確認できませんでした。
今回は3万円の「ミシュラン記念コース」。こんなネーミングをしてしまうセンスに頭が下がりますが、昔とちがってその部屋専門のスタッフが張り付いて、料理説明や西太后関連のうんちく話をしてくれるのでそれなりに楽しめます。
「宮廷料理」の名前が一人歩きしていますが、あくまでこの店の料理は、「宮廷」にいた「西太后」が毎日食べる「家常菜」。つまり西太后の「家庭料理」であります。
北京の本店では、1万円台で楽しめるシステムだと聞いていますから、日本の値付けは高すぎると言えるでしょう。
酒類も高すぎ。メルシャンの古越龍山(陳年10年 750ミリリットル)は定価が3000円ですが、店ではなんと10500円。いくらなんでもやり過ぎでしょう。
ほとんどお酒を飲みませんでしたが、一人4万を軽く突破してしまいました。
CP悪すぎです。
XEXトーキョー
学生時代の仲間家族と大勢でのランチに利用。予約だと4500円のコースしか頼めません。フリで入ると、前菜が食べ放題、パスタがついて2800円のランチビュッフェが頼めるだけに残念。
コースはまったく美味しくありませんでした。
リブルーム
ニューオータニのステーキハウス。
「ボルケイノ」というアメリカンテンダーロイン260グラム(8000円弱)の宣伝に釣られて行ってしまいました。
サラダバー、パンかライス、コーヒーもついての価格(グラム数によって比例している)なので、それほど高いとは思いませんが、かけられるニンニクバターがくどすぎる。塩胡椒とニンニクと醤油の方がすっきり食べられるのではないか。トータル的には「チャコ 六本木」の方がお得だと思います。

「モウラ」更新しています

「ぎをん か波羅」の宣伝担当・関谷江里子さんが自身のブログでまったく取り上げなくなって2ヶ月近く。自ら広報だと胸を張られていたのですが、この戦線離脱はまことに不思議であります。4月末まではこれでもかと何回もブログで取り上げていたからです。
何かの事情で自身のブログで宣伝できない窮状を見かねたのか、彼女の親分がいよいよ登場してきました。まずはご覧ください。
http://www.kadokami.com/blog/archives/2008/06/post_238.html#more
しかし門上親分、子分と同じく「店宣伝」のスタイルはまったく同じ。味や調理、サービスに対する何の検証もなく、ただただ宣伝に徹しきるそのスタンスには頭が下がるばかりであります。どんな店の料理でも疑問を持たずべた褒めに徹するこの人たちの舌の構造を見てみたいものです。
今週発売された「週刊ポスト」の「ぐうなび」という漫画でも「か波羅」が取り上げられておりました。この作者も、レセプションパーティに呼ばれたんでしょうか。
さて、「モウラ」に大森駅近くの和食「まき村」をアップしております。
デビュー本の「シェフ板」黒本で取り上げて以来すっかりご無沙汰しておりまして、6年ぶりの訪問でありました。ぜひお立ち寄りください。
http://tomosatoyuya.moura.jp/