外資系証券に限りませんが、証券アナリストほどいい加減な連中はいないでしょう。どんなに予測をはずしても責任を問われない気楽な商売。つい最近も東芝に対する以下の分析を読んで、私は椅子から転げ落ちそうになりました。
ドイツ証券は10日付で「買い」の投資判断を継続した。宮本武郎リサーチアナリストはリポートで「震災の直接被害は少なく、原子力事業は約8割が保守・メンテナンスで、進行中の新設案件にもおおむね変更が出ていない」と説明。NAND型フラッシュメモリー事業の需要は強いため「今後も増益基調を維持できる」との見方を示した。
確かに原子力事業は新設より保守・メンテの売り上げが多いでしょうが、その保守・メンテが今まで通り行われると思っているのか。
女川や東通(東北電力)、そして敦賀(日本原電)もありますが、メンテ・保守の主体は東電。その東電には問題の福島第一のほか、福島第二、そして柏崎・刈羽に総数17基の原発があります。
現在のところその17基のうち運転しているのはわずか柏崎・刈羽の4基だけ。女川、東通、敦賀も停止しています。
運転している4基も本来なら今年後半から順次定検で停止しなければならないはず。果たして放射能ジャジャ漏れの福島第一を横目で見ながら、運転再開のゴーサインを出す首長がいるのか。
発電コストが非常に安い原発は、稼働できるからこそ大金をはたいて保守・メンテをするのです。
海江田大臣から各被災者に早急に仮払いをしろと言われている100万円でさえもいつ払うかはっきり言わない東電。
目処がたたない原発の再稼働より火力など他の発電システムの立ち上げを優先しなければならない。いや、いくらかかるかわからない天文学的数字の事故対策や補償を優先しなければならない東電に
いつ再開できるかわからない原発の保守・メンテへの金銭的な余裕?
などあるはずがないではありませんか。
しかも菅さんが言っていたように、30キロ圏内はむこう数十年間にわたって居住不可能との見通しもあります。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110413-00000608-san-pol
福島第二原発は第一からたしか10キロ圏内だったはず。第一の6基だけではなく、第二の4基ももう再稼働は無理と思った方が良いのではないか。少なくともこの5年、10年はとても無理。
また世界的にも原発建設の再検討や原発メーカーの撤退の動きがあるとの報道もあります。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/accident/502258/
当然日本国内の原発新規建設もむこう10年単位でストップは必至。宮本武郎氏が言うところの
進行中の新設案件にもおおむね変更が出ていない
というのは、原発事故処理や電力量確保でてんやわんやの東電が、新設案件にまで思考がまわっていないだけのこと。変更が出ていないのではなく
慌てふためいていて変更する余裕がない
だけなのです。
海外への原発展開も難しいのではないか。トルコは当面原発新設を見直さないと発表しておりましたが、その海外展開の中心となっていた東電が
ベトナムやトルコ向けは当面凍結
を決めたようです。よって日本の原発事業は当面
廃炉事業
しか期待できないと私は考えます。
しかしこの廃炉もそう簡単には出来ない長期戦です。何10年もかかるというのが世界的な常識であります。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/disaster/502375/
ところが東芝はウエスティングハウスと組んで
10年で廃炉
を提案しておりました。(その後、日立・GE連合との共同作業を提案)
?http://www.asahi.com/special/10005/TKY201104070573.html
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110413-OYT1T00594.htm
しかしTMI(スリーマイル島)の実績云々といっても、TMIの原発形式は加圧水型のはずです。ウエスティングハウスも加圧水型の原子炉のメーカーであります。
問題の福島第一だけではなく東電管内の原発はすべてGE型の沸騰水型。ウエスティングハウスがGE型の原子炉の後始末をするということは
ベータを担いだ東芝に、パナソニックのVHSビデオを修理させる
ようなものではないでしょうか。英科学誌ネイチャーでは
沸騰水型原子炉の特徴として、多数の配管や弁などが複雑に配置されていること、使用済み燃料を運び出すためのクレーンなどが爆発で破損していることなどによって、福島第1原発の廃炉は「TMIよりはるかに困難な作業になる」との意見も紹介している
とありますから、10年廃炉は机上の空論ではないか。原子力事業(新規建設や保守・メンテ)が今後長く期待できないので
廃炉ビジネス
に活路を見いだしたい気持ちはわかりますが、何年かかるかわからない放射能ジャジャ漏れの福島第一原発の終息に加え、何10年単位という途方もない期間で売り上げを分散しなければならないのが廃炉ビジネスであります。
今回のドイツ証券・宮本武郎氏の見立ては、電力業界や原子力事業に関してまったくド素人の
見立て
であると私は考えます。
さて昨日、東電・清水社長の会見がありました。株主代表訴訟を恐れているからか、弁護士に知恵つけられたようで記者達の質問に
ベストを尽くした
とのフレーズを連発していました。
このような予防線をはられますと、日本では株主代表訴訟の際、原告(株主側)が勝つためには
ベストを尽くしていなかったことを証明
しなければなりませんから非常に難しい。トンズラ社長と揶揄されている清水氏、今回の事故処理対応能力やリーダーシップは別にして
自己防衛術
だけは、人並み以上に長けた方だと思います。
今年の流行語大賞に
ベストを尽くした?
がノミネートされるか、注目です。