友里征耶 行っていい店、わるい店

Qサイト連載コラム 2003~2006年までの連載コラム

オカザワ氏の再反論 1

5月12日(金) 第980回
オカザワ氏の再反論 1
-友里は本山葵がわからないのか-

フェア・ドマの松橋シェフの口癖ではないですが、どうもオカザワ氏と 話が噛み合わないところがあるようです。
以下は、「友里は本山葵の味もわからないだろう」といったキツイ文言を含んだオカザワ氏の反論です。

--- 以下、オカザワ氏より ---

(友里コメント引用)
「よく、やせ細ったような小さな山葵をだして客にすらせるパフォーマンスをする蕎麦屋がありますが、あんな山葵、口に入れられたものではありません。 しかも根本ばっかりで。」

(オカザワ氏談)
これがそうではないんですね。あれはやせ細ったというより、本ワサビの赤ちゃん。 8年ものの立派なヤツと比べても、香り・辛味ともにそれほどヒケを取るものではありません。 「そじ坊」などでそばに添えてくれるのは実にありがたい。ホンモノとニセモノはまったくのベツモノ。 レトルトやチューブの本ワサビってのは羊頭狗肉で、添加物や調味料が多すぎます。あれならいっそ水で溶く粉ワサビのほうがまだマシ。根元ばっかりと言っても、ワサビは小っちゃいのもでっかいのもみな根元でしょ。

(友里コメント引用)
「本鮪はおろか、ミナミ鮪を飛び越えて、キハダやメバチを扱うような廉価なスシ屋にまで、本山葵を要求するという事は、ビストロの「ラミティエ」にトリュフやキャビア、軽自動車にセルシオ並の静粛性、ビジネスホテルにバスタブのほかシャワーブース、友里に格調高い文章力を要求するようなもので、 元々無理というものです。」

(オカザワ氏談)
ちょいと本スジからズレますが、メバチをバカにしちゃイケませんぜ。一度浅草は「鎌寿司」のまぐろを食べてごらんなさい。バチの背とろなんざぁ、ビックリする美味しさですから。いい仲買いから入れていても銀座の「水谷」なんぞ足元にも及びませんよ。 まぁ、何という例え方をするのでしょう。トリュフやキャヴィアは高級嗜好食品、セルシオも超高級車。ところが本ワサビは違います。「富沢町砂場」は500円のもりに添えてきますし、大衆的な活魚料理の千住大橋「田中屋」、浅草「志ぶや」などは廉価な小肌酢にもタップリですよ。これは料理人の気概と品格の問題。これらの店の主人は違いが判るのですよ。だからニセは絶対に出さない。いや出せないのです。何故って、判っていながらニセを出しちゃったら、自分で自分を軽蔑することになるからなんですね。
むかし、「弁天山美家古」の四代目が品書き札の横に並べていた木札にはこう記してありました。「粉山葵不許」。これは「粉ワサビ許さず」と読むのですが、まさしくです。ボクは本ワサビ以外のワサビを使うすし屋をすし屋とは認めません。ただし他の人がそういう店をすし屋と認めることにはまったく異論を挟みません。心に決めた自分のルールは人それぞれです。これは単なる鮨っ食いもゴルファーもおんなじ。人によって6インチの長さはずいぶん違いますモンね。 ただ気になるのはプロと呼んでも差し支えのないほどのフードライターである友里さんがあまりにワサビに関しては無頓着なこと。違いが判らないとしか言いようがありません。まだその魅力に気づいていないし、目覚めていないのでしょう。一度ご自宅で良質の刺身を前に、本・ニセ・粉の3種類を比べてみてください。それも脂の多いトロやぶりはいけませんよ。平目・小肌・赤身でやれば歴然です。いかもするめいかは不向き、すみいか・あおりいかあたりを奮発してください。翌日からもうニセには戻れず、ニセを使っていたすし屋が憎くなりますから。

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私は、「本山葵」と「チューブの山葵」の味わいに大差がないとゆうておるのではありません。 両方試された方、すなわちほとんどの方はその違いがわかるはずです。チューブ山葵の主原料はホースラディッシュですからまったく別物です。
この二つをいまさら家で食べ比べなくとも、いくら「味音痴」な友里でもわかっております。もっぱらデパ地下で求めた刺身を自宅で食べるときは、チューブ山葵ですけど。

言いたかったことは、客単価高めの鮨屋、寿司屋で使われている本山葵を2千円前後のスシ屋に求める必要があるのかということだけです。確かに本山葵を使うに越したことはありませんが、質があまりよくない刺身に使っても意味がない。また逆に、質がよい刺身なら、本山葵の助けなくても旨みを感じることができると思います。
オカザワ氏の言いたかったことは、人気のある、評価の高い廉価な寿司屋では、 本山葵を使うべきということでしょうか。本山葵を使わない店は寿司屋ではないと。 私は、高額鮨と2千円前後のスシはまったく別物、2千円前後の店は「スシ」であって「鮨」や「寿司」ではないので本山葵に拘る必要なない、といっているだけですから、裏を返せば同じ主張なのかもしれません。

セルシオと軽自動車を例えにだしたのは間違いでした。ここは、クラウンを瞼に浮かべてください。タクシーと一般に売られている高級乗用車。外観は似ていますが、価格、性能はまったく異なります。高額鮨と廉価スシの関係と同じです。
ここで、本山葵に相当するものとして、ラジアルタイヤを挙げてみます。 バイアスタイヤとラジアルタイヤはグリップ力などで車に与える走行性能はかなりことなります。誰でも、バイアスよりラジアルの方が良いに決まっています。 しかし、LPG駆動のあの手のエンジンのタクシーにラジアルは必要なのか。 主体が時速50キロ前後の街中走行です。タクシーでもラジアルにすれば走行性能は上がると思いますが、その性能を発揮できる走行状態がほとんどないのではないか。成田-都心の定額タクシーなどだけがラジアルにしていれば充分といえるでしょう。

山葵も同じ。高額鮨と廉価なスシは外観こそタネと酢飯の構成で似ていますが、 タネも酢飯もまったく別物。
廉価なタネには本山葵はタクシーにラジアルと同じでそれほど必要でない、というのが私の考えであります。

それでも本山葵にあくまで執着されるなら、廉価なスシ屋ではタネなしで、 特別に本山葵だけで握ってもらえばいいのではないでしょうか。