高すぎだよ、コジト

この春オープンしたテレ朝通りの路地をちょっと入った一軒屋のフレンチ。雑誌ではビストロと紹介されています。西麻布や広尾に展開している「アルモニ」、「マルシェ オーヴァン ヤマダ」の山田シェフの店。夜の訪問でしたが、かなり盛況でビストロというわりに年齢層が高いのは意外でした。山田シェフは厨房ではなくホールで常連を中心に客対応に徹しています。シェフがホールに立ってしまっては、厨房で確実に一人分スタッフが余計に必要となりますから、CPは期待できないことが予想されました。
料理は4,800円と6500円、8000円、1万円のコース主体。アラカルト風のメニューの中から好きなものを選ぶもので(お任せの8千円と1万円コースは別)、料理は前菜6種、魚4種、肉6種ほど。白アスパラ、フォアグラ、豚の煮凝り、子羊ロースト、ほほ肉赤ワイン煮、牛、豚ロースト&トリッパ、鴨&フォアグラのミンチパイ包み、子牛料理などがありましたが、ビストロ料理定番の鴨コンフィ、牛ロース、豚足、クスクス、シュークルートやリエットなどは見当たりませんでした。
ここはビストロと思ってはいけないようです。4800円と6500円コースの違いは選べる前菜の数が違うのですが、ポーションは大きくありません。コースといってもチーズやデザートを含んでいないのでほとんどの客が追加することになります。設定価格を安めにして結果客単価は高くなる高度な営業戦略です。
私は前菜2、メイン1の6500円コースを頼みましたが量が足りず1品追加しました。ビストロというわりにあまりに量が少なすぎる。
「ジャボン パセリの煮凝り」は上品な味付けというかラヴィゴットソースが薄味すぎる。「アスパラとホタテ」も凡庸で、スペシャリテとすすめられた「牛ほほ肉の赤ワイン煮 ブルゴーニュ風」は肉はトロトロでしたがソースは色を見てすぐわかるくらいツメが緩いもの。肉が柔らかいだけでは駄目なんです。追加で頼んだ「鴨 フォアグラミンチ パイ包み」(3800円)はイメージはボリーさんのスペシャリテに近いものですが、マディラベースのソースはやはり物足りません。血を入れた濃い目のソースのボリー料理が懐かしい。
ビストロ料理といえど、ボリュームは少なく、味はよく言えば上品、はっきり言えば物足りず、価格も決して安くない「コジト」。ワインもシャンパーニュNV9000円が示すとおり安くはありません。特にグラスワインが高いものしかない。造り手は忘れましたがバタールモンラッシェが3?4千円くらいでありました。グラスで特級畑を用意しているビストロなんて考えられない。安いものでも1級ではない畑名付の白ワインに2200円かかりました。もっと安いグラスを置くべきです。
ワインリストは立派。ブルゴーニュだけのものも別に用意され、1級や特級が1万5千円から4万円。何か勘違いしていませんか山田シェフ。
そして圧巻はグループ全体で所蔵しているワインのリスト。新しいワインでもデュガなど高いワインが中心。古いものでは61年のヴォギェのミュジニー、85年前後のアンリジャイエのクロパラやリシュブールと、ブルゴーニュの古酒好きには垂涎のアイテムが並んでいましたが、いずれも価格が表示されていません。市場価格に連動させて相対での値段を変える戦略なのでしょう。料理もそうでしたが、ワインもまったくビストロとはかけ離れた設定の店なのです。
唯一お値打ちと思われた8800円のワインに高いグラスワイン、ポーション少ない6500円コースに一品メインを追加してサービス料10%を入れて2万6千円。これって一人の値段ですよ。気楽にお試しで入店したのですが、あまりのCP悪さに唖然とした友里でありました。
最後に。アンリ・ジャイエの死去を何人かの方からメールで教えていただきました。私がワインに夢中になったキッカケの一つがこのアンリ・ジャイエのワインとの出会いであります。その頃は今のようなペトリュウスやロマネ・コンティに匹敵するほど高くはなく、ちょっと無理すればお店で飲めた古き良き時代でありました。ブルゴーニュが好きになったのもジャイエの影響です。最近は公にはワインを造っていなかったようですが、数に限りがあるレアワイン。死去をきっかけに益々手が届かないワインになってしまうことでしょう。