鮨屋が胸を張る「原価率50%以上」のウラ その1

本日は先週予告しましたように、拙著「グルメの真実」(宝島社新書)に書いた一部を転載します。今日明日と2回に分かれます。

飲食店でよく言われている原価率(売値をベースにした食材や調理がしめる割合)、どのくらいの数字が適正なのかご存じでしょうか。一般には30%前後と言われておりますが、これは店の形態や価格設定の違いで大きく変わってしまうのです。

バイトスタッフを主に雇用し業務用の半完成品や冷凍物を使用する店と、腕の良い職人を雇い天然ものなど高級食材を仕入れる店と、適正な原価率(限界利益率)が異なるのは誰でもわかると思います。
売り 上げ (客単価)から、 人件費、地代、設備の減価償却費、光熱費など売り上げに比例しない固定費を差し引いた残りが、飲食店の場合は変動費と利益になるわけです。この変動費分を売り上げ で割った数字が いわゆる原価率ですから、固定費の圧縮ができ ないと仮定すれば、利益を上げるには変動費を削る以外に方法はありません。

しかし売り上げ(客単価)が高い店と安い店では、利益を上げるための原価率の数字はかなり異なってしまうのです。
客単価が何十倍と違う店はザラにあります。1000円のファミレスと3万円の高額和食を例に挙げてみましょうか。

客単価はこれほど違いますが、人件費や地代、光熱費に関して30倍の違いが出るはずがありません。いくら職人の給料が高いと言っても、時給がバイトの30倍となる3万円はあり得ない。月給600万円以上の雇われ料理人(料理長以外)たちが次々と誕生してしまうからであります。
つまり固定費は上限がありますから、客さえ来れば客単価を上げれば上げるほど、利益+変動費の割合を高くすることができるということ。換言すればボロ儲けしようと考えなければ、食材費を30%といわずもっと上げても店は利益を上げながら成り立っていけるのです。

逆に単価が安い店は固定費の占める割合が大きくなりがちですから、利益を確保するには原価率を下げるしかない。もしくは、客単価に相当する固定費を下げるため分母を大きくする、つまり捌く客数を増やさなければならないのです。
廉価の店が利益を上げるために捌く客数を増やすには、牛丼屋のように客の回転を上げるか、ファミレスのように大箱にするしか方法はありません。これらの店に、高額和食のように、10人ほどのキャパで一 晩一 回転という形態が皆無という例を挙げることで、理解いただけると思います。

換言すれば、高額店が小キャパでやっていけるのも説明できるのです。この理屈に目を付けて大儲けしようと考えたのが、高額店の大キャパ化であります。高額店は小規模でも利益を上げられるわけですから、大キャパにしたら食材も効率的に仕入れられますから原価率を下げることができ、理論上(客が来れば)更に大きな利益が上乗せされることになるのです。

しかしこれを目指した店は「ベージュ トーキョー」の例でもおわかりのとお り、机上の計算となって頓挫しております。
オープン前からグランメゾンのファミレス化(大箱化)と批評された「べージュ」は一度も盛況さを見せることなく今日に至っております。高額店と大キャパは両立ません。