土曜日のブログでカンテサンスの岸田シェフを例に挙げて
ソースなし、低温ロースト調理
について取り上げたところ反響が大きかったのか、友里掲示板がおおいに盛り上がっております。8日に立てたスレ(しかも23時過ぎ)にもう200近い書き込み。
つまらない揚げ足取りと違って、本質的な話になりますと今まで眠っていた方まで書き込んでいただけますから、主宰者としては嬉しい限りであります。
その反面、外食をしないくせに汚い言葉を使って突っかかってくる方がボロを出すなど面白い展開にもなりました。
掲示板での色々な書き込みから、「ソースなし」、「低温ロースト」というものが見えてきたように思います。
そこで本日再度、このことについて友里は取り上げることにしました。まずは、Invitation 2007年5月号に掲載されたという岸田氏のインタビューの一部をご覧ください。
あっちに行っていろんなシェフと会って、パスカルが一番現代的な料理を作っていた。彼の考えでは、「ソースはおいしいっていうのは知ってるよ」と。
でも、ソースがおいしすぎて、素材よりもソースがおいしいのはもったいないんじゃないかと。
素材がよくて、塩と火加減がしっかりしていればおいしいだろう。
素材を尊重するなら、ソースが旨すぎちゃいけないんじゃないかと。
彼はよくいっていたんですね。
そういう考え方に触れているうちに、僕もちゃんとした素材があるなら、きちんとキュイソンしてやればいいという考え方になってきた。
今の僕はソースの素晴らしさも、パスカルのやり方も理解しているけど、どちらかを選ばなくてはならない。混ぜる事はよくない。
料理にはコンセプトが必要なので、いいとこどりというのはできないと思います。だから僕はより現代的なほうを選んだ。
いくつの店(3つ星店含め)を訪問して、アストランス(パスカルシェフ)の料理が現代的であるとの判断に至ったのでしょうか。そして今でもこの料理法が現代的と思い続けているのでしょうか。
誤解をされている方もいらっしゃるようなので申し上げますが、友里はこの世から低温ローストやソースなしの料理をすべて駆逐したいと思っているのではありません。そんな料理も選択肢の1つとして脇に存在していてもよいと思います。ただし、このソースなし、低温ローストが
フレンチでは唯一無二の調理法でこれに勝るものはない
そして現代的な調理法だ
という間違った(友里の主観と言われればそれまでですが)意見をいうシェフの言葉を
信じる人を一人でも少なくしたい
と考えているだけあります。
土曜日にも書きましたが、岸田氏は
ソースがおいしすぎて、素材よりもソースがおいしいのはもったいないんじゃないかと。
素材を尊重するなら、ソースが旨すぎちゃいけないんじゃないかと。
と旨いソースは素材の良さを否定するかのような発言(妄想)をされております。しかし本当に旨いソースが素材の良さを殺すのでしょうか。
居酒屋や廉価の和食に行きますとすぐわかることですが、これらの店の味付けは例外なく濃い。その意味は、味を濃くすることによって食材の質の悪さを目立たなくさせる意味もあるからなのであります。つまり、確かに濃い味にすることによって素材の良さを隠す(質の悪さを隠す)ことが得きるのは事実。
しかし高額和食でも味付けをせず、(塩だけ)でソースに匹敵する出汁(出汁に匹敵するのはフォンだという意見もありますが、レシピではなく料理人の技量に左右されやすい、煮込みを除いて短時間勝負ということでソースと同等と判断)を否定して客がくるというのか。友里は岸田シェフが
旨いソース = 味が濃いソース
と勘違いしているのではないかと考えるのです。もしかして岸田シェフは
大味好き?濃い味好き?
確かに濃い味ソースは素材の良さを殺すかもしれませんが、それは単なる廉価な店のソースでありまして、高額フレンチでは
素材を更に昇華させるソース
があるのではないか。そんなソースを岸田シェフが造れないだけだと友里は考えるのです。料理人ではないですが、同じ飲食業界の方からも
素晴らしい素材と素晴らしいソースによって、素材だけでは出来ない新しい魅力を作り上げるのが、プロにしか出来ない仕事のひとつなんだと思います。
とのご意見もいただきました。
友里は低温ローストを全否定して絶滅したいのかとのご指摘もいただきますが、数ある調理法の1つという位置づけであると考えます。強いて主張するなら、
低温ローストが現代的で最高の調理法だとの偏った考え(間違った考え)を発信する店やシェフを絶滅させたい
のであります。
自分が造るソースでは素材の良さを引き出せないから低温ローストのみに拘っている
低温ローストは時間がかかるけど肉の縮みが少ないので歩留まりよく、しかも火入れの失敗が少ないからやっている
修業店ではソースを出していなかったのでうまく造れない
と発信していたら、友里は批判しないのであります。
岸田シェフは若い頃「カーエム」にいたからソースは造れるだろうと思っている方もいるかもしれません。しかし私は言いたい。
カーエムに何歳からどのくらいの期間いて、何を任せられていたのか
ホールにいても厨房のパワハラが響き渡ったカーエム。若い追廻レベルのスタッフがソース造りに関わっていたとは思えないのであります。また宮代シェフが輩出した有名シェフの存在も私は知りません。
その他掲示板のご意見では、
低温ローストはアルページュやアストランス系列(アストランスもアルページュ系列というのでしょうか)でしかやっていない。
他の3つ星フレンチでは出会うことがない調理法
とまでありました。本場フランスでは流行らなかった調理法を
現代的
と発信しているとしたら、純粋無垢な一般客をミスリードしたのではないか。(ミシュラン調査員も惑わされてしまったようです)
低温ローストしか調理法がないですから、メインの使用食材の選択肢は限られております。肉では鴨、豚、牛にせいぜい癖のない鹿くらいではないでしょうか。癖のあるジビエを素焼きで提供するのは無理があります。
それでも食材が限定される低温ローストを盲信するのですか
岸田シェフと純粋無垢な一般客への友里の問いかけであります。
最後に、昨年10月に岸田シェフの修業元であるアストランスへ行った時(2回目)に食べた料理のいくつかを書いておきます。
ラングスティーヌは相変わらず半生でしたが、鯖は火が入りすぎ。
子豚は皮がキャラメライズされていて火入れも強く、セップ茸のソースだけは美味しかった。
鴨はラズベリーソース添え。煮込んだような食感だった。
初回の訪問の時と違って結構火入れしているというか、低温ロースト特有の半生状態のものは少なかったと記憶しております。岸田シェフ、
アストランスの料理、もしかしたら現代的に変化しているかも
であります。
未だ若いんです。これから一生、ソースなし、低温ローストと心中する必要はありません。
吐いた言葉は飲み込めない
と言いますが、5年も経てば皆忘れてしまうでしょう。10年先を考えて、いや50歳代以降も考えて、今からでもソース修業や煮込みを含めた他の火入れの習得を目指した方がよいのではないでしょうか。
食材の選択肢がないワンパターンの調理法が未来永劫(20年、30年)続くとは思えません。
そして友里は偉そうですがカンテサンスの厨房で働いている修業人に対し
低温ローストやソースなしはフレンチのごく一部の調理法であって、唯一無二の調理法ではありません。
大事なフレンチ料理人人生を踏み間違えないよう、他の調理法の習得もしなければなりません。
と言って本日のブログを終わることにします。