あるフレンチ料理人の嘆き

昨日ファミレスで、男が従業員を人質にトイレに立てこもり、すぐに逮捕されたとのニュースがありました。

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20120313k0000m040064000c.html

大マスコミの記事には詳しく出ていなかったのですが、この容疑者

未明の1時に入店し15時間も居続け、ビールや日本酒を10杯にステーキなど1万円分の飲食

をしていたというから驚きであります。デニーズ入店は数えるほどしか経験がない友里でありますが、あの形態の店で

15時間も粘る
一人で1万円分飲食する

ことが出来るものなのか。この手のファミレス、一般客の滞在時間は1時間かからないのではないでしょうか。あの値付けとプアな酒類のストックで、1万円分も飲食することができるのか。
場所を借りてもの書きをしていたとしても15時間はあまりに異常。数時間も粘られた段階で「不審者」と判断するのが普通だと思うのですが、この時間帯に店長など責任者は店にいなかったのでしょうか。
デニーズにはリスク管理の意識を問われる今回の事件であったと考えます。

さて先日、あるフレンチ料理人から以下の話(嘆きに近い)を聞きました。

(高額な)鮨は料理だけでも2万、3万と平気で請求できるけど、フレンチでそんなことしたら袋叩きになる

一般にフレンチは高額になるとの認識があるかもしれませんが、しかしそれはワインをカウントしてしまうからでして、料理だけならそんなに高くはないんですね。
街中のフレンチなら料理だけで1万円以内、晴れの日利用のグランメゾンでさえ2万円かからないのではないでしょうか。
ちょっと調べてみますと

レカン     前菜7千円前後 メイン1万円前後 コース1.5~2.5万円前後
アピシウス   前菜6千円前後 メイン7千円前後 コース2万円以下
J.ロブション 前菜8千円前後 メイン1万円前後 コース2~4万円

コースは2万円前後(ロブションはかなり高めの設定)とちょっと高くなりますが、食べ込んでいる人が頼むアラカルトではどの店も前菜とメインの2皿では

1.5万円前後 

なのであります。グランメゾンンではトイレは男女別が当たり前(はしぐちは世界初?の男女別あり)。
一番費用がかかると言われる換気設備ふくめ厨房設備費用は鮨の比ではありません。鮨屋の厨房なんてフレンチと比較したら、ゼロに近いのではないかと思うほどであります。(水回りと冷蔵設備、そしてコンロ1つ)
客一人当たりのスペースも

フレンチ>>>鮨

とかなり違いますから、客一人当たりが負担する賃料も、鮨屋の数倍になるはずであります。そして極めつけは人件費。
客一人当たりのスタッフ数、これも桁が違うのではないか。高額鮨屋のスタッフ数は、主人と女将の2名にせいぜい追廻が数名。中には主人一人、女将と2人だけのところもありますから、マージンサイドに考えて3名としておきましょう。キャパは10名が一般的ですから客一人当たりのスタッフ数(早い話が人件費)は

0.3人

となります。それに比べてグランメゾンはどうでしょうか。キャパは食べログによりますと

レカン      38席
アピシウス   60席
J.ロブション  40席

個室があるとはいえ、アピシウスのキャパが多すぎるような気がするのですが、厨房やホールのスタッフを数えたら、グランメゾンンの場合限りなくキャパ数に近いのではないでしょうか。在りし日のロオジエなど、客よりスタッフの方が多かったとも聞いております。

客一人にかかる地代は安い
客一人にかかる人件費も安い
設備費もほとんどかからない
食事時間が短い(回転が出来る)

という鮨屋がグランメゾンンの1.5倍から2倍近い料理価格設定なのですから、上述のシェフの嘆きも理解出来るというものです。

更に料理人(職人)の仕込み時間も大きく異なるのではないでしょうか。小野二郎さんが鮨屋の仕事を神格化させてしまいましたが、はっきり言うと

〆る、煮る、炙る、切る(酢飯)

とほとんど時間はかかりません。穴子の炙りなんて裏で女将や追廻がやっているのがほとんどではないでしょうか。業務用の半完成品を使用しないまともなフレンチと比べること自体無理があると言うほど差があると友里は考えるのです。
それなのになぜ鮨屋はフレンチより高く設定しても店が成り立つのか。

それでも客が行きたいと思うのだから仕方ないだろう

こう言ってしまっては身も蓋もありませんが、伊集院静さんのように

変に鮨屋を特別扱い

する人が多いのが原因であると友里は考えるのであります。
でもこう書きますと、以下のような反論がでてくるかもしれません。

鮨屋の原価率は5割を超えているんだぞ

本当に5割を超えているかは、神と鮨屋主人しか知るよしもないでしょうが(築地の仲卸ならわかるかも)、百万が一、原価率が5割を超えていたとしても鮨屋は充分に設けられる商売であると私は主張したい。
詳しくは「グルメの真実」(宝島社新書)に書いているのですが、もはやJ.C.オカザワの専売特許であった

初版印税もらい逃げ(早い話、初版1万5000部がはけない)

が目前の友里。お読みいただいたブログ読者は少ないと思いますので、この部分だけ、来週にでもブログで何回かに分けて掲載したいと考えております。
本日のブログは

フレンチシェフも羨む鮨屋のビジネスモデル

いや

どうせやるなら鮨屋に限る

でありました。明日もフレンチと鮨関連のブログにするつもりです。
どうぞお楽しみに。