第988回 やはりスシ屋はすぐに独立できるのか

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  • 2006年5月24日(水)
「サライ」に握りの技術が習得できる教室として
「東京すしアカデミー」の宣伝が乗っていました。
江戸前握り鮨の調理技術と経営技術を学べる専門学校だそうで、
講座名は「江戸前寿司プロ養成口座」、
定員は8名、費用は43万500円。
期間はなんと3週間です。
プロの鮨職人になるのに3週間で足りるほど
濃密で素晴らしい教育システムを構築したというのか、
それとも鮨職人になるには1ヶ月かからないほど
奥が浅い職業なのか。
私は後者に限りなく近いものではないかと想像します。

何度か書きましたが、
和食の経験はあっても鮨の修業歴がなく
独学ですぐ鮨屋をオープンし、
それをウリにした大胆な主人を知っているからです。
また、20代で独立する若き職人も後を絶ちません。
独立して店を維持し客を満足させられる技術や魚の目利きが、
独学か数年の修業で習得できる、
オープン資金も簡単に集められる、
と鮨業界が自ら明かしているこの最近の傾向。

小野二郎氏は自著などの本で、
鮨の仕事、技術にかなり付加価値をつけて説明していますが、
実際は違うということか。
極論と言われてしまうかもしれませんが、
鮨は季節によっていくつかタネは異なりますが
どちらかというとワンパターン。
生で握る、〆て握る、煮て握る、蒸して握るなど
仕事はいくつかあり、
タネによってその加減は多少異なるでしょうが、
フレンチやイタリアンと違って新しい料理、
自分だけのスペシャリテを考案する必要はありません。
新しい鮨を出したら、創作鮨だといわれて
江戸前の看板を降ろさなければならないからです。
つまり習うこと、習得することは限られているのです。
(天麩羅やトンカツほどワンパターンではないでしょうけど)
季節によって、つまりその日の気温や湿度で
微妙に仕事を変えているとの弁解もあるでしょうが、
それは他のジャンルの料理においても同じ。
家庭の主婦でも、夏と冬では
意識的でなくても味付けは変わっているはずだからです。

鮨はタネが4で酢飯が6と二郎さんは言っています。
本当でしょうか。
酢飯がそんなに重要なら、
なぜ高額店、人気店でも、甘い、しょっぱい、普通、緩いと
酢飯がこんなに違うのか。
職人や客の酢飯に対する嗜好がこれほど異なるのか。
私はタネが7、酢飯を含めた技術が3くらいではないかと考えます。
そうでなければ、
これほどはやく独立できる鮨業界の説明ができません。