第986回 握った鮨を直ぐに食べろというならば

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  • 2006年5月22日(月)
「サライ」の5/4号に「天下一の鮨職人の技」との巻頭企画で、
小野二郎さんと作家の高橋治氏が鮨について対談していました。
「お任せ」で頼むのが一番、色々なタネを満遍なく食べろ、
といった鮨屋サイドに立った話が進んでいますが、
彼らの一番の訴えは、
「鮨はすぐ食べてすぐ店を出ろ。長居するな」であります。

「酒飲んでゴルフ談義で2時間いられたら鮨屋は赤字だ」
と高橋氏は言っていますが、
こうも出鱈目言ってもらっては困ります。
「次郎」で2時間粘る客はよほどの常連でないと無理でしょうが、
普通の銀座の鮨屋は2時間くらい居る客がほとんど。
あの「次郎」と同じかそれ以上の満足感
(この手の傾向の鮨が好きな方限定ですが)の「水谷」でも
夜なら2時間は大丈夫です。
「小笹寿し」しかり、「青木」も大丈夫。
最近流行りの若手の店でも夜の2時間は長すぎることはないはず。
しかも「さわ田」(3時間近く)を除いて他の店は
「次郎」よりかなり安くてタネ質は変わりません。
でもみんな潰れていません。
2時間客に居座られて赤字ならば、
個人営業だけにこれらの店はとうに店じまいしているはずです。

「次郎」の夜の客単価は、
ちょっとツマミをつまんで、酒を飲んで3万5千円前後のはず。
これで2時間客に居られて赤字になるなら、
3万円以下で同じような質の鮨を出している
他の高額鮨屋は存在しなくなるではないか。
他店では赤字にならず、
どうして「次郎」だけが赤字になるというのか。
同じような質のタネを他店よりはるかに高く仕入れているのか。
塚本ビルの賃料が他店と比べてはるかに高いというのか。
長男をはじめ従業員への報酬が他店と比べて遥かに高いというのか。
高橋氏もなぜこんないい加減な発言をするのでしょうか。
いい年してなぜこれほど「次郎」の肩を持ちたいのか。
彼の心中がまったく理解できません。

「次郎」の営業は、18時前後から20時過ぎまで、
平均して3万円前後の請求額で
カウンターを2回転、願わくば3回転させて
早めに切り上げて帰宅したいという方針なだけです。
マスヒロさんはじめ、里見真三氏などが印税を稼ぎたかったからか
必要以上に二郎さんを持ち上げ神格化してしまった結果、
勘違いした職人が出来上がってしまった結果の
「店側」というか「小野二郎」側だけの論理の「早食いのススメ」。

確かに握った鮨はタネも乾くし早く食べろというのは一理あります。
私も握った鮨は早く食べる方がよいのはわかります。
しかし、問題はそのインターバル。
客が食べ終わると同時に次の握りを次々だしてきては、
あまりにせわしないではないか。
ゆっくり鮨の余韻に浸っている余裕がありません。
もし本当に客においしく、
そしていい思いをして鮨を食べてもらいたいと思っているなら、
握りと握りのインターバルをもっととって、
食べた後の余韻を楽しむ時間を与えるはずです。
ただ回転させたいだけ、ただはやく客を帰したいだけのことなのに、
偉そうに文化人を巻き込んで「鮨早食いのススメ」をする二郎さん。

本当に早く食べるのが一番なら、まずは常連から指導したらどうか。
グダグダとツマミだけで1時間以上粘っている常連を
何回か見たことがあります。
早く食べろと言っているのに
握りのオミヤを造っているところも見ました。
直ぐ食べろと、酒飲んで粘るなというなら、
まずは常連に徹底させるべきでしょう。
握ってから何十分もたってから食べるであろう
オミヤを造るのをやめればいい。
一般読者といった弱いものに偉そうに言う前に、
通い続ける「粋ではない常連」を
まずは啓蒙することが筋ではないでしょうか。