第912回 ワインの諸々 93シェリーについてちょっと補足を

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  • 2006年3月5日(日)
私は専門書やネットで調べれば誰でもわかるような
教科書的な薀蓄を書くことに面白みを感じないので、
コラムで取り上げる事はほとんどありませんでした。
ワインにしてもしかり。
毎回、古川修さんのコラムは、
食材や調理法の考え方など新しいヒントを得る事が出来るので
楽しみに拝見していたのですが、
シェリーに関して
ちょっと読者の方が混乱される点に気がつきましたので、
補足させていただきたいと思います。

シェリーは普通の白、赤ワインといったスティルワインと違って、
発酵途中にブランデーを添加する「酒精強化」ワインです。
他の酒精強化ワイン、例えばポートワインと大きく違うところは、
白系ブドウだけを使い、
「ソレラシステム」という熟成方法を主にとることです。
100個くらいの樽を積み重ねて置き、新しいワインを上から入れて、
下段から取り出して瓶詰めするのです。
均等なワインにするための装置といえるでしょう。
基本的な造り方が同じでも、味わいなどの結果が異なるのは
シェリーや日本酒に限ったことではありません。
どの分野でもあると思いますが、
そこが各メーカーや職人さんたちの「技術」の差、
考え方の違いというものです。

シェリーは3種のセパージュから作られますが、
決してその数は少なくありません。
ボルドーのようなブレンドワインでも、認定品種は5種ですが、
実際使われるのは3種がメインですから。
シャンパーニュも3種しかありません。
ブルゴーニュは、ガメイやアリゴテはありますが、
主流は、赤はピノ、白はシャルドネと単一品種であります。
一つしか品種がないのに、
数え切れないほどのブルゴーニュワインで、
それぞれの味わいが異なるのは、畑の違いもありますが、
メーカー(ドメーヌやネゴシアン)の
醸造方法の違いが大きいのです。
同じ畑でも数多くの造り手がいますが、彼らのワインは千差万別。
決してシェリーだけが造りの違いが顕著に出るものではないのです。
そしてワインの醸造技術は単純でもないのです。
発酵過程の単純さが、
そのまま醸造技術の単純さにはつながらないからです。

いい例があります。
シャンパーニュはメーカーによって
みな味わいが異なるのはご存知のはずです。
ノンヴィンでは、伝統的なそのメーカーの味わいを出し続けるため、
ブレンド技術が問われるのですが、
今の流行であるドメーヌシャンパーニュを除いて、
大手のメーカーはほとんど自社畑ではなく、
農家からブドウを買い付けています。
ブルゴーニュでいうネゴシアンですね。
つまり、元のブドウは年毎に質が異なる、収獲地も異なるのに、
出来るノンヴィンシャンパーニュの味わいは、ほとんど変わらない。
しかもメーカー毎には味にかなりの差がある。
ここがシャンパーニュメーカーの実力を見るには、
ノンヴィンで判断せよと言われている所以です。
つまり、シェリーに限らず、どのワインでも、
味わいに醸造所の技量や考えが
はっきり反映されてしまうものだと言うことです。

「テロワール」、日本語にうまく当てはまる言葉がでてきません。
しかし「テラ」とかいう、
「地面」、「地球」を意味することから考えて、
よく言われているのは「土壌と風土」でしょうか。
気候、地質、地形、土壌など複合的に絡み合ったものであります。
このテロワールの違いが大きくブドウの味わい、
ひいてはワインの味わいに影響をもたらすのは今までの常識でした。
決して、シェリーだけ
「テロワール」が「醸造所」を指すものではありません。
ただ、20世紀後半から醸造方法がかなり変化したと
何回も私は述べました。
どれもこれもアメリカ人好みの、
濃い目で早飲みのワインになってきているのではないか。
つまり、テロワールに関係なく、結果はみな同じ味のワイン、
似たようなワインになってきているということです。
ここも言い換えれば、ブドウは違っても結果は同じ、
つまり、醸造所によってワインの出来が異なるのは、
シェリーだけではないという証左でもあります。