第724回 江戸前だがタネ質は価格どおり、弁天山 2

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  • 2005年8月3日(水)
各タネ1貫ですが、2種のタネで一度に2貫出してきます。
最初の頃は主人が握っていましたが、
気がついたら2番手に交替していたのは
経験を積ませる為でしょうか。
共通しているのは2人とも話し好きということ。
特に江戸前鮨の起源や歴史を話し出したら止まりません。
山本益博氏の鮨経歴の起源とも言われているだけのことはあります。

コハダなどはかなり強めの〆具合に感じたのは
江戸前を強調しているからでしょうか。
干瓢巻きやネギトロ巻きもしっかりした味付けで私の好みでした。
そしてこの店では、ウニやイクラがありません。
そういえば、トロの握りもでてこなかった。
江戸前は手で圧力を加える、
つまり握る、巻くというのが基本だそうで、
軍艦巻きにしかできないネタと、
値も張りヅケにしないトロは使わないということでしょう。
最近はウニを握って供する鮨屋もあるのですけど。

コテコテ江戸前ではお約束なのでしょうが、
仕入のなかで値の張るトロやウニを堂々とはずせるのですから、
「コテコテ江戸前」は
最初から他の鮨屋より仕入れ価格で有利になり、
その戦略に脱帽です。
よく「コテコテの江戸前鮨」は、
客単価が安くてしかもCPが良いと言われる店がありますが、
それは当たり前ではないでしょうか。
仕入れ値と質で一番頭を悩まされるであろう、
鮪もコテコテにヅケにするだけですから、
本来一番質を気にしなければならない赤身にも悩まないでしょう。
そして値の張る中トロ、大トロを仕入れなくて良いのです。
ウニにも悩まなくてよく、白身もかなり〆ますから
最上質の必要はないはずです。
コテコテファンの客は、高級食材や質の高いタネでなくても、
塩と酢を使い手間はかけるでしょうがそれで満足します。
トロやウニがないではないかと文句をつけるどころか、
「さすがコテコテ江戸前だ、トロやウニを置いていない」
と賞賛してしまう不思議。
それなのに、同条件の仕入れタネではなく、
ウニやトロを出さなくては文句を言われる高級鮨屋と
最終的な支払額だけ比較するのですから、
CPがよく感じるのは当たり前です。

高質タネ志向の鮨屋よりかなり安くてもそれは当たり前のはず。
しかし、実際にはそれほどの価格差はなく、
銀座など都心ではなく地代も安い立地の
有名コテコテ江戸前鮨でさえ、1万5千円前後しますから、
よい商売をしていると私は言いたくなります。

この「弁天山」も、タネ質はそんなに高いとは思えません。
タネは仕入れてから寝かす、
仕事するなどで3日ほどかけるということで、
週末に客が食べきってしまうと
週明けは河岸の休みの関係で鯖など揃わないタネがあるのも残念。
今回は主人や2番手の話をじっくり聞いた2時間で
1万5千円をかるく超えてしまいました。
ツマミが思ったより高かったのでしょうか。

<結論>
次郎や水谷、勿論、都心の30代主人の店ともまったく違う鮨屋。
産地に拘らないのか、拘れないのか
「・・・産」というパフォーマンスがないのは落ち着けます。
江戸前の原点を知る上で
一度はカウンターで食べるといいでしょうが、
店構え、タネ質、立地を考えるとご近所以外はリピートが苦しい。
結果的には都心の高級鮨屋とあまり変わらない支払いになりました。
使っているタネと質をしっかり考慮すれば、
CPは評判ほど良くは感じないはずです。