第723回 江戸前だがタネ質は価格どおり、弁天山 1

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  • 2005年8月2日(火)
現在鮨屋では、「江戸前」が流行っているようです。
それもコテコテの「江戸前」です。
噂では久兵衛出身ながら、
まったく方向転換した西大島の「與兵衛」が連日満席とか。
席数が少ないということもあるでしょうが、
積年の苦労が報われたのか、ただ今ブレイク真っ最中とのこと。
ただし、都内でも一二を争うコテコテ江戸前と知人から聞いて、
ちょっと逡巡している友里です。
私は適度な江戸前仕事は理解できるのですが、
タネの特徴や質がわからなくなるほど仕事したコテコテは
あまり得意ではないからです。

たとえば牛の赤ワイン煮。
徹底的に煮詰めた本格派の料理の食材に、
松坂牛など高級和牛や色々な部位を一緒に使っても
意味がないのと同じだと考えるからです。
白身や川魚までなんでも同じように〆てしまうと、
本来の食材そのものの特徴がわからなくなるのではないか。
質もあまり関係なくなります。
ただし教えてくれたコテコテ好きな知人は、
1年のうち自分が調理するのも含めると9割5分以上、
イタリアンを食べていて滅多に和食を食べないのですが、
なぜかコテコテ江戸前だけははずせないそうです。

そのコテコテ好きな知人と行ったのが、
昔から有名、とくに先代は若い頃のマスヒロさんに鮨や料理を教え、
また「個人的」な面倒もみたとして有名な
「弁天山美家古寿司」でした。
雑誌や週刊誌の鮨屋特集では必ずといっていいほど紹介されている、
江戸前に拘っている鮨屋。
ネタは必ず一仕事していて、
生をほとんど置いていないと言われています。

浅草駅から徒歩5分、
建て直したのでしょうか、黒い外壁で
昔気質の江戸前鮨といった外観ではありません。
雪国によく見られる2重ドアは、店内が狭く、
直ぐ7席のカウンターが迫っているから
外気の影響で急激な温度変化を防止する為でしょうか、
3卓ほどのテーブルも含めて15名ほどのキャパです。

握りは明朗会計。
10貫5250円から17貫に巻物1の9965円まで4コースと、
設定価格は安いのですが、紙オシボリはちょっと貧弱に感じます。
酒飲みが頼むツマミは、3皿が基本。
その日は、タコやシャコなどの煮物、
ホタテと鮪のヌタ、カツオやブリなどの刺身でした。
最近の若手鮨屋と比べると、
鮨ネタでは珍しいブリを含めて
イメージ的には小料理屋のツマミといた感じです。
シャリは固めですが酢は想像していたより強くない。
赤酢は使っておらず、握る時に主人は手に絡めています。
ヒラメ、鯛、メカジキ、白キスは当然昆布〆、
赤貝など貝類も甘酢をくぐらせているようで、
この店で生のままの状態で供されるネタはほとんどありません。
生はシマアジとイカくらいでしょう。
よって、同じような価格帯である新鮮ネタ系寿司の、
生中心に慣れている人には向いていないかもしれません。

<明日に続く>