第636回 高額鮨屋の格差がなくなってきた?

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  • 2005年5月7日(土)
先日初めて昼に銀座の「小笹寿し」へ行ってきました。
近所の看板のない鮨屋へ行ってみようとしたのですが、
あいにく営業しておらず、
既に「鮨モード」に入ってしまった私は、
同じ価格なら「九兵衛」よりはこちらと考えたからです。
実は昔、初めて「小笹寿し」を訪れたのは昼でした。
一人で戸を開けたのですが、客はゼロ。
ちょっとびっくりしたのですが、座りかけた私に主人は
「昼も夜も同じ価格ですよ」といった内容の説明をしてきました。
座りかけていた私はそのまま固まりました。
頭のなかでは

「うーん、つーことは『お任せ』だから
1万5千円から2万円いってしまいそうだ。」
          ↓
「まてよ、今持ち合わせはいくらだったかな。
もしかしたら足りないかも。
でもこの段階で財布の中を確認できない」
          ↓
「お好みで、数貫でやめておくか。
いや、しかしそれはみっともない。
でもこのまま引き返してもカッコ悪い」

とさんざん考えて結局ないものは払えないので
「すみません。出直してきまーす」
とつとめて明るい口調で慌てて店をでて
対面のビストロに逃げ込んだのです。
それ以来「小笹寿し」の昼はトラウマになってしまって、
しっかり財布の中身を確認した後の夜しか訪問出来ませんでした。

今回ようやく昼に訪問したのですが、
夜も含めて久々に味わったこの店の鮨で気づいた事があります。
オボロをかませた〆ものなど
ちょっと変則的な鮨が前からあるのですが、
その変化球がかなり多くなっていたことに驚いたのではありません。
タネ自身というか鮨全般で
「いやー、ここは素晴らしい」というような
それほどのものを感じなくなったのです。
タネ質も落としているわけではなく、
上レベルでおいしい鮨ではあったのですが、
他の高額店との違いを感じません。
以前は好きな、そしてここはいい店だ、
との思いがあったのですが・・・

最近は30代主人の鮨屋をはじめ
鮨職人の独立がかなり多くなりました。
高額鮨店も競走の時代になってきたようです。
高額鮨店が客を呼ぶ最大の武器は「タネ質」でしょう。
仕事云々をいう料理評論家もいますが、
オーディオならまずアンプより
スピーカーをグレードアップするのが手っ取り早いのと同じで、
鮨もタネのレベルを上げるのが一番だと思います。
昔ほど修業歴のない若手がどんどん独立して
人気を博していることがその証左と言えるでしょう。
「なかむら」など
鮨屋の修業歴のない事をウリにしている場合もあるくらいですから。

つまり集客をはかるため
タネ質を上げた店が巷にどんどん出来てきたため、
高額鮨店同士の差が
あまりなくなってきてしまったような感じがするのです。
鮪は「フジタ水産」みたいな方程式もできあがっていますから、
他のタネのルートも似たり寄ったりでしょう。
若手職人同士の情報交換もあるようです。
しかし、そのしわ寄せは客に最終的に来ます。
限られた上物を取り合うわけですから仕入れコストはあがります。
原価率が普通の飲食店の数字より高いのが鮨屋の特徴でしょうが、
それも限界があります。
よって、数年前より
高額鮨屋への支払額がかなりアップしてきました。
このデフレの時代に毎年エスカレする珍しい業界といえますが、
鮨ブームもあるでしょうし、「鮨は高額で当たり前」
みたいな風潮が出来上がってしまっていますので、
このシステムがなんとか成り立っているようです。
しかし、このままどんどん高額鮨屋の料金は上がり続けるのか、
それとも土地と同じようにいつかは急落するのか。
当分は上がり続けるでしょうね。