第637回 ワインの諸々 その56ワインは特別の飲み物ではない

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  • 2005年5月8日(日)
「日本のワイン」についての友里の発言に対しては、
色々なご意見をいただきました。
賛否両論ありましたが、
その中で醒めたというか冷静なご意見がありました。
「もともとワインを特別視することがおかしい。
ワインは世界中のかなりの地域で造られている
一般的なお酒と考えるべきもの。
日本だろうがどこだろうが目くじらたてるものではない」

確かにそう言われてみればその通りとも考えます。
ただのアルコール飲料と考えればいい、日常的なものと考えれば、
どこどこ産とか拘りを持つ事もなくなります。
瓶では銘柄を問題にする人も居ますが、
生なら銘柄を問わない人が多いビールと同じようなものです。

ワインが普及していなかった昔、
つまり今のようにイタリアンはほとんどなく、
フレンチも数えるくらいだった時代は、
ワインは特別な飲み物、
高級な飲み物みたいに思われていたと思います。
ワイン愛好者=セレブ、のような印象に
愛好者自身が見られることを望んでいたともいえます。
つまり一般の人とは違う、
という事を打ち出したかったのでしょうか、
ワインは複雑、難しい、としたかったのでしょうか、
やれ色はなんだ、粘性はなんだ、香りはなんだ、味わいはなんだ、
余韻はどれくらい続くか、
など面倒くさい評価システムをつくりあげて
他の飲料との差別化をしてしまったと思います。
結果、このことが
ワインの普及を大幅に遅らせる原因になったと思いますが、
そのおかげでワイン愛好家は長々とある種、
いい気分に浸れたのです。

私がワインにのめりこんでいった時、
先輩たちがよく言うフレーズのなかで、
どうしても解せない事がありました。
ワイン会などでよく言われたことですが、
ワインについて
「まずい」、「おいしくない」という表現をするなと言うのです。
「造り手が一所懸命つくっているので、
そのような表現は適切ではない」ということらしいですが、
これ自体がワインを完全に「特別視」しているといえるでしょう。
なにも生産者が一所懸命造っているのはワインだけじゃない。
日本酒や米、野菜はどうなんだ。
そんなことを言ったら、どんな食べ物も
「おいしい」、「おいしくない」とはっきり言えないではないか、
と私は反発しました。

うまいものはうまい、駄目なものは駄目、
とはっきり表現できるワイン会をやりたいという持論から、
私は偉そうな言い方ですが、
「開かれたワイン会」として
不明朗なワイン代も購入値をオープンにして
割り勘にするというシステムで
仲間を集ってワイン会の開催を続け、
ついでに飲食店評論もおまけでやりだした結果、
ご縁があって出版させていただくまでになりました。

つまり、「ワインの特別視」が存在していなければ、
友里征耶はでてこなかったということになりますね。