第610回 最近みる狡猾な集客方法

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  • 2005年4月11日(月)
第599回で「看板のない店」の特集記事はいかがなものか
というコラムを掲載しました。
料理の腕や使用食材とはまったく関係ない
「看板」のある・なしが我々一般客の食後感に
影響を与える要素なのかという問題提起でした。
「看板がない」ということを一つのウリにして、
集客をはかりたいといった店側の意図がみえるのですが、
こんな可愛い方法ではなく、
これはちょっと狡猾ではないか、
といった営業方法を最近見かけるようになりました。

それはずばり「店のデータ出し惜しみ作戦」です。
取材を堂々と受けたのでしょう、
店先、店内、そして料理まで写真付で雑誌に大きく掲載されながら、
店のデータを載せるのを拒否する店が目に付くようになりました。
ただ載せないだけではなく、
わざわざ「店の都合により掲載できない」
と注釈をうたせた駄目押しもあります。
わざと不掲載を目立たせ、
なにか特別な店、常連だけの店、口コミだけで一杯の繁盛店、
おいしい店、のように読者に感じさせ、
その好奇心を煽って集客をはかるという、
狡猾としか思えない頭脳的というか悪知恵です。

この不掲載のパターンは4つ。
店名、住所、電話番号と3つとも載せない店、
店名だけの店、
店名を明かすが電話番号だけで住所を載せない店、
同じく店名と住所を明かすが電話番号を明かさない店、
などです。

本気で店のデータを公開したくない、
つまり常連だけの店にしておきたい、
口コミだけでミーハーな客に教えたくない、来てもらいたくない、
と本気で考えているならば、雑誌の取材を受けないでしょう。
いくら料理人たちの自己顕示欲が強いからといって、
本当に知られたくなかったら
雑誌に載ることを了解するはずがありません。
雑誌にヨイショ記事が載ったら、
興味を抱く読者がでてくるのは当たり前で、
そんなことがわからないほど世間知らずな料理人はいないはずです。

それを、写真付で掲載するということは、
鎧の下になんとやら、ではないですが、
本心は読者に調べて来て欲しい、
といった願望が透けて見えるのです。
しかも不掲載ですが、
所在地などはヒントが書かれている場合が多く、
たいていたどり着けます。これでは不掲載の意味がない。
また、住所と電話の両方を不掲載の会員制の店でも、
ある連絡先にコンタクトする、
応募をすることによって
特別枠で入店できると書いてある店もあります。
これなど語るに落ちる、という以外に形容のしようがないでしょう。

店名を明かし、住所を隠して電話を教えてどうしたいんだ。
電話番号を隠しても住所を明かしてどうするんだ。
何の効果があるのか。
まさに読者の好奇心につけこんで、コンタクトを取ってくれ、
と言っている証左でありましょう。
確かに店名まで明かさなかった新宿御苑の「シェフス」は、
知っている人間でなければ特定するのは難しいでしょうが、
主人の自己顕示欲だけは人一倍ということでしょう。

ざっと最近私が記憶している不掲載の店を最後に列記してみます。
「シェフス」を除いて、いずれも店名は明かしております。

電話・住所不掲載は、
石頭楼、メゾン ド ウメモト、鷹匠 寿、
住所不掲載はラ シュエット、電話不掲載は趙楊など。
しかし、趙楊などガラガラの店なのに、
電話不掲載では全然この戦略の効果がでていないといえるでしょう。