第607回 カウンター形式は誰のため?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 2005年4月8日(金)
鮨屋にカウンターがなければ変ですが、最近は割烹に限らず、
イタリアンやフレンチにまでカウンター形式が現れて、
普及してきた。
カウンター形式に対する違和感が薄れてきたようです。
でも、本来カウンター形式は何を目的にしたものなのか、
まずは稚拙な頭で考えてみました。

1、スペースを省略したい。テーブルなどを置くスペースがない。
  賃料を節約したい。
2、人件費を抑えたい。給仕スタッフなどを省略できる。
3、すぐ料理が客前に出せる。鮨や天麩羅にはもってこいです。
4、客が料理人の調理を目の前で見て楽しめる。
5、ホイチョイ本にありましたが、
  カウンターだと女性を落としやすい。

1と2は店側のメリット、3は両者、4と5は客側のメリットです。
元来カウンターはテーブル席に比べると、
客は居心地などで制約を受けるはずです。
料理人のお手前を拝見できるという余禄がありますが、
調理方法などに興味のない人、男同士の場合など
カウンターに座るメリットがあるとは思えません。
デメリットだけで、メリットのないカウンターでいいのだろうか。
いや、本来はそれでも
客側にメリットをもたらしてくれていたはずだったのです。
それはずばり価格。
スペース、スタッフ数を抑えるということは、
客側に制約を与えますが反面、請求金額を抑えることが出来ます。
運転資金の中で大きな割合を占める賃料や人件費を節約することは、
そのまま売価も抑えられるということだからです。
鮨屋も最近はカウンター外、
つまり客側でサービスするスタッフのいるところもありますが、
今はなき銀座の「トゥ ソル」や
洋食系の「栄庵」など和食系でない店でも
主人である料理人とせいぜいマダムだけの陣容であったはずです。
本来カウンター形式は、
店側、客側の両者にメリットをもたらしていました。

そこそこの金額ならカウンターでもいいかなと、
男性客同士や調理に興味を持たない客でも
なんとか納得するはずなのですが、
最近カウンター形式では、
本来のメリットを出さない店が登場してきました。
代表例は「トトキ」でしょう。
カウンターには鮨詰めと思われるくらい
びっちり客を詰め込みながら、
調理スタッフ以外のサービススタッフが
マダムを含めて3人はいます。
背後のスペースが狭いのに後ろで動き回れて圧迫感を感じます。
「ラトリエ ロブション」が提唱するようにカウンター内、
つまり前から料理を提供すれば
このようなスタッフは不要のはずですが、カウンターでありながら
この店は料理をわざわざ専門のスタッフが
客の後ろからだしてきます。
これだけのスタッフを抱えるからでしょうか、
料理の値付けもグラン メゾン並みですし、
ワインに至っては東京でトップランクの高価格といえます。
そして駄目押しはサービス料。
しっかり高い料理と高いワインに上乗せしてくるのですから
驚きです。
しかしこれでは、賃料の節約や効率的な客数確保のために
カウンター形式を導入しただけで、
なんら客にメリットを返還しないことになるのです。
シェフの調理が見えるじゃないかと言われるかも知れませんが、
それは入り口付近だけ。
背後のスペースが狭くて圧迫感がある奥のカウンターでは、
若い追廻し役のようなスタッフが
前菜などの盛り付けをしているだけで、
まったくその価値はありません。
つまり、この店の場合、
カウンター形式はオーナーであろう十時氏にしか
そのメリットが享受されていないのです。

最近は、カウンター形式が流行ということで
取り入れてくる新規オープン店が目立ちます。
そして、もう世間に認知されたとばかり、
しっかりサービス料を加算してくる店も増えてきました。
でも私は訴えたい。
店側だけが恩恵を受けるカウンター形式、
つまり形だけカウンターにして、
料理の値付けやサービス料などは
普通のホール店と同じ価格システムにしていいのかと。
あまりに料理人、店側だけの一人勝ちではないかと。
客側にも配慮した良心的な運営の店だけに、
注目する賢い選択がこれからは必要と考えます。

最後ですがこの「トトキ」。高いのに相変わらず満席のようですが、
オープン当初と比べてかなり料理が落ちてきました。
食材や調理の質が落ちているとしか考えられない食後感。
しかも、1万2千円と1万5千円のコースは皿数が一つ違うだけの
ミニプリフィクス形式に変更。
魚や肉の各料理の選択は5種ほどありますが、
追加料金のない皿は1つだけ。
つまり残りの4つの料理は最低で1500円、ほとんどが3500円という、
普通の店だったらメインの料理価格に匹敵する
追加料金を設定するといた暴挙にでてきたのです。
つまり、選択性とはいえもともとのコース価格が高いですから、
追加を払いたくなければ頼める料理は1種しかないのです。
少ないでしょうが追加料金を払う客からの売り上げ増と、
大半の払わない客用に
1種の食材でカバーできるという仕入れの手抜き。
まさに勘違い営業への転換といえます。

以前私は高いけど料理はおいしいと述べましたが、
料理のクオリティーも落ち、
このような客をおちょくったような営業方針。
連日満席にした我々客側に甘えて
十時氏は調子に乗ってしまったようですが、
客を舐めてはいけません。
一般客だってしっかり考えていますし判断も出来るはずです。
早く修正しないと、早晩客足が遠のいた店になることと思います。