第51回 オーナーシェフの店に未来永劫なし

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  • 2003年7月8日(火)
一昔前人気があった店なのに、
最近パッとしないといった現象を良く目にしませんか。
だいたい10年くらい経つと表れてくる兆候です。
フレンチ、イタリアンなど
ジャンルに関係なく万遍なく出てきます。

そのような店はたいてい、オーナーシェフなのです。
20年前なら「シェ イノ」、「プティ ポワン」。
10年前でイタリアンなら「ダノイ」。これらの店は当時人気店で、
予約が非常に取りにくかったと言っても、
今の人にはピンと来ないかもしれませんね。
今では評価本にもあまり取り上げられず、
週末でも満席にはならない店であります。
共通しているのは、オーナーシェフの店ということでしょう。
入店してメニューを見たら、全盛期のスペシャリテが
そのまま番を張っているのが特徴です。
10年も20年も続けてしまって飽きられた結果です。

オーナーシェフは経営者でもあります。頑張って独立したらまず、
安定して客に来てもらうことを最優先するでしょう。
料理やサービスで評判を取り、
人気店になったオーナーシェフが次に考えることは、
この人気を長期にわたって安定させることです。

・マスコミに出まくって顔を売って客層を広げ続ける。
・料理評論家などと親しく交流して「日本一」と言ってもらう。
・客に厳しく接し、客を見下した態度をとって
 逆に「カリスマ性」を出す。
・儲かっているうちに多店舗展開して店の認知度を上げる。

などです。どこかで見たことのあるやり方ですね。

本来の飲食店としての料理の向上とは
まったく関係のないことなのですけど。
そして、肝心の料理の面では、安定志向となり
創意工夫して新しい物を産み出す努力を避けるようになります。
流行っているのに冒険する必要はないのかもしれません。
年齢的にも中年を超えてしまい、
頭の柔軟性も失われてくる時期でもあります。
かくして10年経つ頃は、進歩のないメニューに飽きられ、
客足が遠のいていることに
遅まきながら気がつくことになるわけです。
客は開店時からの常連だけで、
ランチで集客をはかるようになります。

客の嗜好は時代によって変化しますが、シェフがそれに追随する、
もしくは客をリードし続ける、というのは
なかなか難しいものです。
「ビストロ ド ラ シテ」、「リストランテ ヤマザキ」など
適度にシェフを交換しながら、
それなりに持ちこたえている店があります。
今はスターシェフ、カリスマシェフ全盛ですが、
シェフは消耗品、といった考えが
将来定着してくるかもしれません。