第31回 多店舗展開の言い訳

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 2003年6月18日(水)
席数を抑えてそれなりの味の料理を出し、
マスコミや口コミをうまく利用して評判になり、
予約が取りにくくなったオーナーシェフの店が
数年後仕掛けてくるのが、いわゆる「多店舗展開」です。
店舗が増えることによって売上げが倍増、
利益は3倍増になると取り巻き、プロデューサーという
変な職種の人たちから誘惑があるのでしょうか、
必ずといっていいほど人気店は分店を出店してきます。

「予約が取れない現状は、自分の思惑とは違ってしまった。
より多くの人たちに自分の料理を試してもらいたい。」
「今までの店では制約があり出来なかった料理を
新たに提供したい」
彼らはお決まりの言葉を口にします。
料理評論家、フードジャーナリストもマスコミも
それを何の疑問もなく読者へ伝えてしまいます。
でも、そんなに分店出店の動機は純粋なものなのでしょうか。

「ラ ベットラ ダ オチアイ」。
本店の直ぐ近辺に支店をだしましたが、
確かその理由は「フライヤー」でした。
本店を開く時は予算がなくてフライヤーが買えなかったので
出す料理に制限があった。
そこで、今回はフライヤーを使った料理、
揚げ物も出せる店を考えた、ということですが、
わざわざ支店を出さなくとも
本店厨房内でも充分フライヤーは設置できるスペースがあると
私は思いました。

「モナリザ」も丸ビルの高層階に出店しています。
本店よりもかなり高い価格設定です。
その他、「青柳」、「みかわ」なども賃料の高いスペースに
高い価格設定で勝負をかけてきました。
「次郎」も含めてこれらの店は
本店より腕の落ちる料理人に任せているにもかかわらず。

シェフの体は一つです。
店が二つになればシェフはどちらかの店しか出られなくなります。
たいていは利益を上げようとチャレンジした
新店に詰めているようですが、
それではシェフが不在になった本店はどうなるのでしょうか。
考えてみれば当たり前のことですが、
多店舗展開が客にとって良い結果をもたらすことは
まったくありません。
新しいスタッフを雇うでしょうが、
本店からも何人か新店に廻しますから、全体に質は低下します。
特に厨房内はシェフがいなくなれば統率がとれなくなり、
モラルも低下してしまう可能性があります。
第一、創意工夫することがなくなりますから、
出される料理はレシピどおりの物だけ、
新しい料理は考えられませんからマンネリ化してしまうでしょう。
客足が徐々に落ちていくことも考えられますから、
多店舗展開はオーナーシェフにとっても客側にとっても、
長い目で見たら決してよいことではないのです。
短絡的に売り上げ・利益倍増を狙っただけの
長期的視野、我慢が足りないオーナーシェフが多いのが残念です。