第298回 再び、ビールを用意していないアピシウスに関して

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  • 2004年5月8日(土)
以前から私はビールを出さないフレンチ、イタリアンのことを
否定的に書いてきました。
食前酒として、日本ソムリエ協会だけではなく、
世界で認められているビールを用意していないのはいかがなものか。
粗利が少ないからといって排除するのは残念だ、と
主張してきました。

ところが、今回もある読者の方が
ご親切にも私が具体的店名を挙げた「アピシウス」へ
電話で質問していただいたようで、
その回答を教えていただきました。
やはり、294回の「ダノイ」と同じく思うところがありましたので、
このコラムで取り上げてみたいと思います。

ビールについて「アピシウス」は
「営業方針でビールを提供していません。
 理由は
1、クラシックをベースとした当店の料理と合わないこと
2、ビールは普通、おなかを張らせるので、
  当店においては快適な食事を妨げると考えているから。」

営業方針で取り扱わないとはっきり明言していますので、
外野がどうこう言うことは出来ません。
客として気に入らなければ行かなければいいだけのこと。
しかし、その理由2点にちょっとひっかかったので
友里流に解明してみました。

クラシックをベースにした料理と合わないとの事ですが、
ビールは主に食前酒として
ウエーティングなどの待ち時間に飲むものと考えます。
蒸し暑い日など、直ぐにワインを飲む雰囲気でない場合、
喉を湿らせる効果があると思います。
つまり、店がオーダーして直ぐに持ってくるならば、
料理どころかアミューズが出てくる前に
飲みきってしまうものなのです。
つまり、クラシックだろうがモダンだろうが、
料理に合う合わないの前に飲み終わってしまうもの。
料理とのマリアージュを云々いうならば、
料理の最中にはお勧めできないと、
料理の最中にもビールを頼む無粋な客にそっと断ればいいのです。

第2点、お腹を張らせてしまうので
快適な食事を妨げるとの考えのようですが、
これはその店独自の考えなので
やはり間違っていたとしてもどうこう言う事はできません。
ただ、私が考えるに、
食事を妨げると思っている料理店は少ないはずです。
和食、中華、フレンチ、イタリアン、ラーメンなど
日本のほとんどの店ではビールを扱っています。
お腹が膨れて快適な食事を妨げると店が考えるなら、
ほとんどの店がビールを置かなくなるはずです。
「アピシウス」だけが思いついたのでしょうか。

もし本当にビールが食事を妨げるならば、
粗利の低いビールを取るか、本筋の料理を取るか、
これは子供でもどちらを選択するかわかるはずです。

しかし、アピシウスはシャンパーニュを扱っています。
ご存知、発泡酒です。
昔の婦人はゲップやお腹の張りを気にして、バブルカッターなる
かき混ぜて泡を飛ばすスティックを使っていたとも聞いています。
シャンパーニュも飲めばお腹は張るはずです。
私も白、赤はボトルで頼みますが、
よほどの人数でなければシャンパーニュはグラスですませます。
ボトルをとってバンバン飲んだらお腹が張ってしまうからです。
しかし、アピシウスは、カップル客でも
ボトルでのシャンパーニュのオーダーを拒否しません。
恐らく、一人1本の割合でシャンパーニュを頼んでも、
拒否しないでしょう。
同じお腹の張るシャンパーニュには寛容なのです。
私はここに、この回答の浅さを見てしまうのです。

ノンヴィンのシャンパーニュは、仕入れで高くても3千円。
8杯グラスにとったら1杯は375円が原価。
6杯しかとらなくても500円です。
グラスにヴィンテージ物を出しているとしても、
1杯当たりの原価はしれています。
これをアピシウスレベルのフレンチでは、
1杯1500円はつけてくるでしょうから、
粗利は千円は出る計算になります。

反面ビールはというと、
小瓶を扱ったとしても最高で700円程度しかつけられません。
300円前後という希望小売価格が
あまりに知れわたってしまっているからです。
つまり、シャンパーニュとは粗利がかなり違います。

店側として、無粋な客に食事中にもビールを頼まれると、
ワインの売上がなくなりますから、
店としては置きたくない気持ちはわからないではないのですが。

「なんだかんだは言わない。
ビールは儲けが少ないから置かないだけだ」といった
はっきり言う料理人がでてくればそれはまた、
別の意味で賞賛に値すると私は考えます。