第149回 秒の勝負とは言わない、寡黙な主人の「楽亭」

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  • 2003年11月21日(金)
赤坂にある一見客にはわかりにくい天麩羅屋です。
かなり昔から行っていますが、
最初は対人恐怖症かとも思った主人は
客の問いかけには最低限答えてくれます。
最近はかなり老け込んでしまったのでしょうか、
数年前から息子さんと思われるスタッフが
一人加わっているのですが、線が細くなって
何となく元気がないように見えてしまうのが心配です。

「みかわ」の主人のように、「秒の勝負だ」と言いながら
焦げ目の強い完全脱水した
天麩羅を出してくるようなことはありません。
秒の勝負なら、1秒の遅れで
あんなに焦げ目が強くなるのでしょうか。
赤坂の元氷川小学校近くの、
まったく目立たないカウンター席10席弱の店だったのですが、
最近の「みかわ」の露出に対抗してきたのか、
ガイド本にも主人は写真つきで登場するようになりました。
昔を知る者としてすこし残念。

バブル時は2回転制をとっていましたが、
今は時刻指定が出来るはずです。
1万円と1万2千円のコースは数と種類の違いだけ。
「みかわ 六本木店」と違って事前予約しなくとも、
造りはその場で頼めます。
4千円とかなりの金額ですが、ネタは満足できるものでしょう。

「みかわ」との最大の違いは、油の取替え頻度です。
小上がりも含めて
10人以上の客の天麩羅を平行して揚げているのに
油をなかなか取り替えない本店・分店の「みかわ」に比べ、
この店は揃った数組の客で勝手にスタートします。
中途半端な時期に入店したら、
前の客が終わるまで待たなくてはならない場合がありますが、
それでもコースが終わるまでに
1回は油を交換するのを何度も目にしました。
つまり、「みかわ」とは
油のへたり具合が雲泥の差となっているのです。
「楽亭」に比べたら「みかわ」は同じ油を使い続け過ぎです。

海老はかなり小さめのサイマキ。
焦げ目のないジューシーな天麩羅です。
帆立がある時期には、技量が出る半生の物を経験できます。
器のコレクションに凝っていても
雑然とした店内で油の匂いが鼻に付く「みかわ」より、
整然とした店内で落ち着いて食べられる
この店の天麩羅を私なら選びます。

料理評論家や雑誌、文化人に
無意味に祭り上げられてしまった「みかわ」が
何故にマスコミに持てはやされるのか、実現はできませんが、
無作為に選んだモニターに、
ブラインドで食べ比べさせたら
異なる結果が出ると私は考えます。