第143回 タイユバン ロブション ガラディナー

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  • 2003年10月31日(金)
パリの「タイユバン」が
ミシュランの3つ星を取り続けて30年を記念し、
加えて恵比寿の「タイユバン ロブション」の9周年という
中途半端なお題目で
先日、ガラパーティーなるものが開催されました。
開催は2日間だけ。
ジョエル・ロブションが厨房で陣頭指揮の下、
わざわざ本店のシェフも来日してのコラボレーション。
ワインは本店オーナーである
ヴリナ氏の特別セレクションとのうたい文句で、
参加費用はなんと8万円。

景気回復の芽が出かけているかは別にして、
この時期、かなりの強気な値付けに私は驚きました。
自腹族にとって許容金額をはるかに超えています。
私もこのコラムを担当していなければ
当然無視するイヴェントなのですが、
久しく訪れていないことや、取り上げてみたい衝動にかられて、
数日後、つい問い合わせの電話をしてしまったのです。
結果は店の思う壺にハマってしまいましたが、
店側は既に予約で満席、
10組近いキャンセル待ちと淡々と答えます。
そんなに客は集まらないとの私の予想は崩れ、
おおいに動揺したのです。
問い合わせだけでメンバーも決めていなかったのですが、
つい、申し込みをしてしまいました。
どうせ、10組待ちなので、
順番が廻ってこないとの考えもありました。
ところがです、何とその翌日、
予約が取れたとの連絡が入ってきたのには呆れました。
1日で10組のキャンセルが本当に出たのでしょうか、
疑問は残りましたが申し込んだ以上、受け入れた次第です。

ガラといいながら、
普通のジャケット&タイで良いとのドレスコード、
8万円と超高額な参加費なのに、
料理はまだしも出すワインを事前に教えないという
強気の営業方針に、実際は客が引いてしまったのかもしれません。

当日の客層は予想通り。
ワインのインポーター関係者に見られる若い男性だけの組、
自由業らしき人の家族連れ、
夫婦でないのが見え見えの初老のカップル、といった
自分たちの事も言えませんが、
そのようなある種独特の雰囲気の人たちで、
一応ホールは満席です。
ほとんどの人は領収書を要求することが予想されました。

ウエーティングで83年のドンペリ エノテークという、
それほど珍しくないシャンパーニュを飲みながら、
渡された料理のメニューとワインリストを見て、
私は自分の浅はかさに後悔したのです。
そうです、金額の割にあまりに内容がプアなのです。
その日の為に作られたワイン&料理リストは各人に配られます。
ワインも料理も種類は多い。
食前酒であるシャンパーニュ、
白ワインはロワールにブルゴーニュ、
赤ワインはブルゴーニュとボルドー、
そして最後はソーテルヌの甘口です。
専門的なり過ぎるので具体的なワイン名は挙げませんが、
生産年も優良年を選んではありますが、比較的若いものばかり。
ボルドーでさえ75年、
本当の複雑な味わいがでてくるには
50年はかかるであろうソーテルヌでさえ70年物と期待はずれ。
その他白のブルゴーニュに有名な造り手を選んでいましたが
他は中堅や2級のワインのラインナップとなっておりました。

今回の6本すべて同一のワインを所蔵していませんが、
私の所蔵品や相当品から推定すると、
6本合計で8万円前後です。
海外オークションなどで
一般小売より安めに仕入れた物もありますが、
タイユバンなど向うの古くからの有名店は、
ワインがリリースされた時に大量に仕入れているはずで、
ここ10数年で蒐集しだした私より
はるかに安く購入しているはずです。
仮に、8万円の内訳を、ワインと料理五分五分としたとしても、
6本全部で8万円ですから、余りに高すぎる設定なのです。
しかも、現在どこでも手に入る、飲める珍しくないワイン。
高くて苦労なく飲めるワインをあらかじめ開示していたら、
私達ほか自腹族は予約をしなかったと考えます。
オーナーのヴリナ氏は日本人客を舐めているのでしょうか。
ちょっとワインに詳しい人、飲み込んでいる人には、
まったく食指を動かされないセレクションです。

ワインがワインなら、料理もCPが悪すぎです。
マツタケと高級食材を使った皿もありますが、
アミューズも含めて6皿。
ポーションは小さく、原価はしれています。
最高級の丹波産でも100グラム1万円ですから。
より高い白トリュフもほんの少量です。
客が同じ時間帯に集中してしまったという事を割引くにしても、
温かい料理のはずなのに皿が冷たいままであるなど、
高額ディナーを供する
グランメゾンの姿勢を疑うものが続くのです。
レシピがしっかりしているのか、料理自体は悪くはなく、
価格を考えなければおしい部類の料理。
しかし、多勢の客に対するため、
多人数で次々と調理しているような様が
見透かされる料理をみてしまいますと、
段々「ラトリエ」に近づいていくように感じてしまうのです。
仮に料理を3万円としても割高と考えます。

5~6年前だったと記憶していますが、
ロイヤルパークホテルで嶋村料理長の記念ガラディナー、
本当にブラックタイのドレスコードでしたが、
はるかに印象に残る料理と
安い参加費用だったことを思い出しました。
経営側、料理人側が、やる気を出せば、
CPの良い、満足感を与えられるイヴェントが
出来るはずと私は考えます。