第142回 ホテルの鉄板焼きは肉の旨みを引き出せるのか

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  • 2003年10月27日(月)
帝国ホテルの「嘉門」など、
元はフレンチのメインダイニングだったところを、
鉄板焼にしてしまった場合もありますが、
高級ホテルでは定番の料理店の一つがこの「鉄板焼」です。
ホテルのフレンチへ食べに行こうと考える人たちは、
確実に減ってきています。

帝国ホテルだけではなく、
メインダイニングをフレンチではなく
イタリアンなどに変更する所も見かけるようになりました。
日本で、東京で、
フレンチを食べる客が減っているのではありません。
フレンチを食べに行く際の店検討で、
ホテルのフレンチがわざわざ食べに行くほどの価値がない、と
判断する人たちが増えてきたと推測します。
反面、ホテルの高額料金の料理店の中では、
この「鉄板焼」が一番人気なのではないでしょうか。
場所も最上階に近い見晴らしの良いところが多いですし、
夫婦ではない男女のカップルの出没率が多いのも特徴です。
焼肉ではちょっと抵抗がある人で、
見た目が悪くなく手っ取り早く食事が終わる料理は
鮨と鉄板焼でしょう。
同伴入店時刻に合わせる為
食事の終わり時刻に制限にある「同伴カップル」、
アフターを考えているが
どうしても帰宅しなければならないカップルなどには、
3時間あまり要するフレンチは使い勝手が悪い。
かくして、この手の客層と、
時間は無制限だがなにかパワーが付きそうだと錯覚する
肉とニンニクに釣られるお泊り組も加わって
繁盛していると考えます。

では、果たしてホテルで唯一人気の「鉄板焼」。
純粋に肉料理としてうまいのでしょうか。私はそうは思いません。
どこのホテルでも、
売れ筋は1万5千円くらいのコースでしょうか。
突き出し、刺身、貝かエビ、そして200グラムない
牛肉とライスの構成だと思うのですが、
どれも傑出したものとは思えません。

特にメインの肉。肉は素材の次に焼き方が命です。
鉄板焼は料金とグラム数の関係で肉は薄くならざるを得ません。
焼き具合を指定しても、
厚さが薄くては、食感と旨みを感じないでしょう。
それに、日本人のサシ神話。
鉄板で脂が下に落ちず、
焼き物というより油に浸かって揚げ物になりそうな薄い肉。
自身の脂が多すぎるだけに
尚更肉らしい食感が薄れると感じるのは私だけでしょうか。
そして料理人が勝手に細かく切り分けるという
とどめの愚挙に出てきます。
薄く小さく脂まみれ、それを隠すために
ポン酢や胡麻ダレが用意されているのでしょうが、
この調理法で
肉の本当のおいしさが味わえるわけがないと考えます。

巷のフレンチ、イタリアンでは炭火焼がブームです。
焼き鳥も、鉄板で焼いたらおいしくないのではないでしょうか。
高すぎてCPの悪い「あら皮」も鉄板ではありません。
しかし肉本来の旨みを教えてくれる店としては
一回訪れる価値はあるでしょう。

それでも肉の本来の旨さが伝わらないと思われる
「鉄板焼」が流行るのは、
一部の熱狂的なリピーター支えているという事でしょうか。