第944回 鮨屋というより鮪専門店と考えるべき、入船 2

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  • 2006年4月6日(木)
自分が日本一だと吹聴している「次郎」を差し置いてけしからん、
と思ったのでしょうか、山本益博氏。
表面では来栖氏を認めたふりしていましたが、
こと「入船」に関しては再三雑誌で、
「酢飯は緩すぎてこれじゃ鮨ではない」と酷評しておりました。
「入船」主人も一時は相当気にされていたようですが、
これは完全に来栖氏の「贔屓の引き倒し」。
ヘタな店を不自然に持ち上げると、
その反動で叩かれ方も半端ではないのです。
地元の常連に愛されて経営も順調のようで、
今更ヘタにマスコミ露出しなくても充分やっていけたはずですが、
「今浦島」の基準で取り上げてしまったところに、
「入船」の悲劇はありました。
当然、彼の本がでなければ、この友里も知らなかった訳ですから、
夕刊紙やこのコラムでの取り上げもなかったわけです。
それでは肝心の「入船」のことについて。

この店は他の寿司屋・鮨屋にない特徴があります。
完全年中無休(大晦日、元旦もやっているそうです)、
昼からの通し営業、毎日店開いているので
主人は他店の鮨や料理を食べた経験がほとんどない、など。
驚くべき事実が訪問して次々とわかりました。
普通鮨屋のオヤジは鮨好きで、他店も食べ歩くものなのですが、
この主人はほとんど食べていないというか
食べに行く時間が物理的にないのです。
これでは、自分の鮨にフィードバックがかからず、
進歩がないではありませんか。

もし読者の方の中で、興味が出て訪問されるなら、
昼にある2番手が握る数千円の「お決まり」は、
本当に街場レベルなので頼まない方がいいでしょう。
1万円から1万5千円の範囲である
「マグロづくし」、「お任せ」、「鮪丼」など
鮪を主体にしたものを、
この年中無休の主人に握ってもらってください。
次郎や水谷、そして若手の有名鮨屋が仕入れている
「フジタ水産」扱いの150キロ以下の小さい鮪ではなく、
この店は200キロ以上と
大きな近海生鮪を仕入れているのが特徴です。
前者が香り、酸味が重要なファクターである
「赤身」にも重点を置いているのに対し、
入船は中トロ、大トロに主体を置いているからでしょうか。
大きなブロックで仕入れるこの店の鮪は、
中トロ、大トロの他、皮ギシ、カマトロなどの部位まで
脂たっぷりですがくどくはなく、トロ好きは喜ぶでしょう。
トロを主体に食べまくっても一人2万円いくかどうか。
他の有名店でしたら数倍になるでしょうから、
それを考えたら安すぎる店。
しかし、確かに緩い酢飯でタネとのバランス悪く、
大振りで雑に見える握りの見映え、
鮪以外のタネ質や仕事のレベルも高くはなく、
総合的に高レベルのスシ屋とは言えません。
来栖氏が鮪以外のタネも最高と褒めていますが、
それは在りえません。
何かの間違いというか、王様乱心か、
と私は始めて食べたとき思いました。
鮪以外のタネでは満足できないからといって、
トロを主体に食べ続けると、
いくら脂があっさりした上物といえどもそうは食べられません。
非常に使い勝手が難しい寿司屋と言えるでしょう。

<結論>
鮨屋というより鮪専門店として行って下さい。
鮪に関しては質良くリーズナブル。
しかし他のタネ、握りは凡庸です。
トロばかり食べると胸が焼けてきますから、ほどほどに。
鮨通が認めない、江戸前とは一線を画する
「お子様・若者・初心者向け高額寿司屋」と考えます。