第937回 これは面白い企画、有名店に「1万円で握ってください」

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  • 2006年3月30日(木)
雑誌の飲食店特集にはロクな物がないのは
今まで何回も述べてきました。
「隠れ家特集」、「看板のない店特集」、
「有名シェフのお勧め店特集」、「食通の勧める店特集」などなど。
肝心の料理ではなく、
隠れ家の雰囲気や看板のないことだけしかウリに出来ない店に
まともなものがあるはずがありません。
有名シェフや自称食通の業界人、専門ライター、副業ライターの
馴れ合いヨイショコメントを読んでも、
一般読者にはまったく利益になりません。
しかし私は、「Straight 4月号」の
銀座特集の中の一つの企画を見て感心したのです。

「寿司の聖地 銀座の名店の無理なお願い」とのキャッチで、
「1万円で握ってください」と
「青木」、「久兵衛」などの有名10店に頼んで、
その握りの詳細を写真付で公開しています。
10貫から多いところで16貫ほど。
各タネは産地まで記したもので、
鮪をはじめほとんどがその記述を信じるならば
「天然物」であります。鮪はしかも生の近海物でした。
中には、「天川」などのように価格は別にして、
銀座の名店と言えるクオリティがあるのか疑問の店もありますが、
この企画を考えた編集者と
その依頼にのって1万円の握りを公開した主人たちの心意気に
私は感心しました。
集客に苦しんで、企画に乗った店も中にはあるかもしれません。
しかし、不明朗請求の代表者とも言われる「江戸前高額鮨」で、
1万円に相当する握り内容を公開するということは、
今後もその内容に拘束されると言うことです。
1万円でこのレベルのタネ質の鮨が出せる、
いや今後も出さなければならない、という宣言でありまして、
他の銀座の鮨屋にとって脅威ではないか。
マジシャンがマジックのタネをバラすようなものではないか。
特に「次郎」の不明瞭が際立つのではないか。
この店は、昼に握りだけでも
巻物などを若干追加してお酒を少々頼むと3万円になります。
それがこれら10店では、握りにお酒や追加を考慮しても、
1万5千円前後の計算です。
最近は鮪を含めてタネ質も他店とたいして変わらない、
いやタネ質に拘る店が増えてきて、
他店に抜かれているとも言われている「次郎」が、
2倍の値付けですから、
ボロい商売をしていると言われるのは仕方がないこと。
鮨業界も、世間並みにディスクローズが要求され、
それに応える主人も出てきたということで、
友里はおおいにこの風潮を歓迎します。

ちなみに銀座の有名店を昼にハシゴして価格を再確認してみました。
この10店に入っていない店でも、
例えば「ほかけ」、「小笹寿し」などは1万5千円弱、
「水谷」でも1万7千円前後で、
とてもとても3万円にいくものではありません。

今回の特集のおかげで私はいい店を見つけることができました。
「ととや」。
店名はイマイチですが、赤酢を使った酢飯は私にはおいしい物。
湯引きしてからじっくり漬け込んだヅケ、
じっくり寝かせたコハダ、熟成させた鮪など、
江戸前仕事もきっちり。
「さとなお」さん大好きの、「與兵衛」のように、
手加減わからず何でも同じように〆まくり、
タネの違いがわからなくなるような極端ではない、
酢飯と仕事されたタネのバランスのよい店。
間をおかず再訪しましたが、
好きな「小笹寿し」とは違った硬派な江戸前仕事でした。