第924回 会員制の飲食店は際物ではないか

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  • 2006年3月17日(金)
「GQ 3月号」に会員制の店の特集がありました。
飲食店だけではありませんが、
かなりのスペースが会員制の飲食店紹介に割かれておりました。
会員制システムは、イギリスの貴族社会で発祥したそうで、
上流社会など
限られた集団の利益を守るシステムとして継承されてきた
不特定多数の人を「排除する」ものだそうです。
このような階級、いまでいう「勝ち組」に属していない友里は、
会員制というとスポーツクラブやテニス、ゴルフ場しか
直ぐ思い浮かびません。
そのゴルフ場も、一部の高級倶楽部を除いて経営が苦しくなり、
限りなくパブリック化してきているはずです。
日本で会員制が育つ土壌があるのかと思うのですが、
最近は排除ではなく、
「顧客を守る会員制」の飲食店が出てきたというのです。

店、客とも相互にメリットがあるという「会員制」。
浮気性の客を囲い込むことが出来、安定した需給がみこまれる。
代金回収が安定し、質の悪い客を排除できる。
その分、客にも安い費用で質の高いサービスを提供できる。
と料理人や経営者の「性善説」に則って説明されておりました。
囲い込むだけ囲い込んで客を洗脳し、
冷静な判断力を失わせる可能性も
「会員制」にはあると私は思うのですけど。
なんかダイニング調の内装のぱっとしない店が多そうなのですが、
特集で目に付いた店についてちょっとコメントします。

「LA CHOUETTE」
西麻布にある、
12万本にもおよぶヴィンテージワインを所蔵する店とか。
欧州のコレクターが集めた
ノン・リコルクのワインが中心だとのことですが、
掲載されている写真をみてひっくり返りました。
1975年のシャトー オー ブリオンに、造り手は割愛しますが、
79年のムルソー、89年のミュジニーの3本。
おいおい、
これがヴィンテージワインと胸張って出すワインなのかい。
せいぜい30年しか経っていないではないか。
この程度の古さなら、当然リコルクなどするはずがありません。
そしてワインのレア度もイマイチ。
確かにオーブリオンはいいワインではありますが、
75年を堂々と自慢するほど希少価値があるワインではない。
どうせ見栄を張るのなら、
20世紀最高の出来といわれるワイン、
たとえば、47年のシュヴァル・ブランにペトリュウス、
29年のクリマンや67年のイケムを並べて欲しかったものです。
何万本も所蔵していなくても、
ちょっとしたコレクターならば
この程度のワインをお持ちの方は結構いらっしゃいます。
ここで思い出しました。
もしかしたら、このお店は、
DJだか声優の肩書きを持つ方がオーナーではないでしょうか。
高輪にある紹介制の彼の店では、
もっと古いワインがゴロゴロしていたと聞きますから、
古いワインは飲み干されてしまったのでしょうか。

「鳳蝶」
これまた南麻布と、「麻布」地域は変な店が多いようです。
炙り寿司が主体で、鮭児、寒ブリ、黒ムツ、ノドグロから、
カスゴ、コハダ、サヨリまで炙って握るそうですが、
これを認める鮨通の方がいらっしゃるとは思えません。
キワモノ的な「炙り鮨」をウリにして、
客が来ると思っているのでしょうか。
味のわからない「放送作家」や「業界人」くらいしか
引っかからないと推測します。

なにやら、紹介制のパティシエの店まであるようですが、
最後に匿名で書かれていたのが、
エルブジのフェランをも虜にしたという、
銀座の伝説の日本料理屋「M」。
私はかなり前にネットで検索してこの店の存在を知りました。
フェランとのコラボをスペインでやったとも
写真付で公表されていましたから、
今更店名を伏せる必要はないのではないでしょうか、「壬生」
私も知合いの方に一回連れて行ってもらいましたが、
会員の方の年齢構成はかなり高いはずです。
客はまるで新興宗教の信者のごとく、
料理人や女将のご託宣をありがたく聞き入り、
「美味しい」を連発する光景に、
会員制の店側のメリット、
客の「囲い込み」と「洗脳」の大成功例と感じた次第です。
しかし、月に一回、翌月の訪問日と時刻を指定され、
お酒は一杯だけで昼、夕方、夜の一日3回転営業。
数百の会員を効率よく回して、
新たな入会はほとんど不可能とのことでしたが、
客の頭を硬直させて浮気を封じる洗脳を用いた会員システム、
本当にうまいやり方を考え付いたものと感心してしまいました。
でもこの店の会員の方が日本一美味しいと思われていることは、
個人の嗜好の自由ですから、友里が口を挟むことではありません。