第829回 絶賛する業界人やタレントの舌が理解できない、大田原牛 1

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  • 2005年11月28日(月)
「大田原牛」というブランドをご存知でしょうか。
先日も日刊ゲンダイなど夕刊紙に、
同僚を脅して一人10万円の「大田原牛ステーキ」を無理に奢らせて、
恐喝容疑で逮捕された養護学校職員の記事が載っておりました。
かなり前からTVやマスコミへの露出も多く、
タレントや業界人の数々が大絶賛、
ついにはあの一昔前の世界一ソムリエ、
田崎真也氏も大絶賛したとか。
センスのない「大田原牛」のHPには、
タレントの写真や絶賛文がごちゃごちゃと満載で、
どうみても胡散臭くてまともな物に見えません。

私も昨年、六本木の「みかわ」で隣に座った
多分お笑い系と思われるタレントが、
取り巻きのバックアップで女性を口説きながら
「日本一うまいステーキ」だったと
当時都内で唯一この大田原牛のステーキを取り扱っていた
五反田の「カサローエモ」のことを自慢していたのを聞いて
その存在を知りました。
早速帰宅してネットで調べたのですが、
栃木県の肉牛のようですが、
「大黒屋総本家」という
大田原市にある一法人の商標登録名であるとわかりました。
松坂牛や三田牛のように定義されたものではなく、
個人(法人)が飼育し、
勝手に命名して登録してしまっただけの牛のようです。
商魂たくましいこの会社は「大田原牛」をカリスマ化するため、
2つの戦略をたてました。

1つは、超高額設定。
最低でも1万円から最高10万円と
松坂牛や神戸牛などのブランド牛ではないのに
信じられない高額設定です。
日本最高の値付けと思っていた「あら皮」の倍以上の設定ですから
驚きです。
勿論一人前の価格ですよ。
高額設定は、こんなに高ければさぞおいしいのだろう、
というミーハーやタレント、業界人を引っ掛ける常套手段です。

もう一つは薀蓄というか「能書き」です。
脂の融点が19度と低いので、
手で触っただけで脂が溶けるとのお題目です。
牛の体温は19度以上でしょうから
生きている間にも脂が溶けてしまうと思うのは私だけでしょうか。
しかし良く考えてみると、
脂が低い温度で溶けることが味わいにどんな影響を与えるのか。
脂がすべて溶け落ちたら意味ないと思うのですけど。
融点が低い肉を目指すという事は、
あっさりした食感を期待するものだけに、食後感から考えたら、
「大田原牛」のこの「能書き」に私は疑問であります。

また、BMS
(ビーフ・マーブリング・スタンダード 牛脂肪交雑基準、
要はサシの入り具合のようで、
12段階にわかれ12が最高でチャンピオン牛相当とか)
なる専門用語を持ち出し、
大田原牛はBMS10以上の肉質をうたっております。
来栖王様もこの「能書き」に見事引っかかったようです。
実際BMSの判定は、
「あばら」辺りの肉をとり、基準の絵を見ながら判定するもので、
人によりかなり判定がばらつくものとか。
大田原牛は商標登録モノですから、
恐らく「大黒屋総本家」の身内が
BMSを判定しているものと考えます。
しかもBMSが10以上では脂がしつこく、2~3切れで充分で、
一人前も食べられないとの第三者の指摘もありました。

また「とちぎ和牛」より
1年から2年飼育に時間を費やしているとのことですが、
本当なのだろうか。
普通最高の和牛は2~3歳にかけての処女牛だと言われているはず。
大田原牛はそれより1年から2年余計に飼育しているという事は、
4~5歳の中年か老牛に値するのではないか。
いわゆる人間での中年太りのようなものではないでしょうか。
サシの入り具合が必ずしも肉の味、質に比例するものではなく、
血統や産地、育て方にもよるはずですが、
とりあえずサシの入り具合が牛価格の重要な決め手のため、
このBMS神話を全面に押し出してきたのでしょう。

<明日につづく>