第801回 売れないグルメ本の収支は?
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- 2005年10月31日(月)
巷あふれる拙著を含めた「グルメ本」は、
そう売れるものではありません。
有名無名の料理評論家、フード・レストランジャーナリストたち、
そして我々素人軍団が次々と出版していますが、
有名書店で平積みされ続けるどころか、
棚にも並べられず姿を消していく本がほとんどではないでしょうか。
初版で打ち止め、つまり数千部でおしまい、
というのがほとんどで、
あのマスヒロさんや犬養さんの本も
1年たったらすっかり見かけなくなりました。
来栖王様や麻生氏、そして拙著も増刷に踏み切っていますが、
おそらく在庫の山となっていて、
とても再増刷にいくことはないでしょう。
つまり、グルメ本は出版社には儲からないもので、
特に麻生氏、さとなお氏、来栖氏、
そして私のような素人は実家か本人が裕福で、
著者がそのリスクを負担しているはずだ、
というのがユウキ氏のご推測のようです。
しかし、何度も申し上げていますが、
ここに挙げた4人で出版費用を負担している人は居ないと思います。
では、儲からないグルメ本をなぜ出すのか。
損してまで出版社はグルメ本を出すものなのか。
おそらく儲からない、増刷できない、損をする
と思って出版に踏み切る出版社や著者はいないと思います。
編集責任者、編集担当者は売れる、
売ってやると意気込んでいるはずですし、
何より著者本人たちは、当初はベストセラーを夢み、
素晴らしい印税生活を期待するのですが、
時間の経過とともにそれが妄想であったことに気がつくのです。
ちょうど私は第一巻の出版前後、
出版業界のメカニズムを解説した雑誌を偶然目にしました。
詳しくは覚えていないのですが、
再販制度を保っている出版本は、
本屋のマージンが2割だったか3割くらいで、
取次店(元は大手出版社が出資したとか)のマージンも何割かあり、
著者への印税は最高10%、残りが出版社の取り分となるようです。
つまり、出版社は定価の半額以下の収入、
その中から印刷代、編集・営業などの経費、
デザインや装丁費を出していかなければなりません。
出版して半年、1年と経過したら
売れ残った本は出版社が引き取るわけですから、
ちょっと見るとあまりウマミのある業界に感じません。
ただ最後にこう記してありました。
初版の本をすべて売り切れば、
その出版にかかった費用は回収されるので、
増刷して売れればその分は確実に出版社の利益となると。
初版の部数にもよりますが、増刷できるほど売れて、
返品が少なければなんとかなるということのようです。
何万部も売れなくても、数千部でも増刷できれば
何とか元はとれると踏んで出版するわけでして、
医学書のように最初からパイが少ない特殊本ではないかぎり、
著者へのリスク負担はないのが現状です。
もっともグルメ本の著者は、
本当に自腹なら取材費はでませんから、
数千部の印税ではまったく収支が合わない、
割の悪い仕事であることは確かです。
高額料理を扱うほど損するわけですから、
マスヒロさんなど最近カレーや甘物を多く取り入れているのは
経費削減だと思います。
ところで、売れ行きが芳しくなく貢献できなかった拙著の出版元、
グラフ社の中尾元社長が先月半ば急逝されました。
無名の私の配信レポートを読んで面接、
その場で出版を決断された友里征耶の生みの親、恩人であります。
持ち味を生かせということで、
下手な文章もなるべく修正させなかった編集方針、
辛口批判内容などにも会社が口をはさまず
友里の好きにやらせていただきました。
出版直後は、クレームが殺到しご迷惑もおかけしましたが、
文句は一言も言われなかった。
拙著を邱さんに紹介いただいたきっかけで、
このコラムを担当させていただいた経緯もあります。
10月半ばに盛大な社葬が執り行われましたが、
ここにあらためて中尾元社長のご冥福をお祈り申し上げます。