第778回 勘定書きにひとこと

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 2005年10月8日(土)
読者の方からお題を頂戴しました。
高級和食や鮨屋での支払い時、
明細がなく小さな紙に合計金額だけしか明記されない
独特の「お勘定」システムについて述べてみろ、とのことでした。

合理的な欧米ではまずあり得ないでしょう、
この大雑把な「お勘定請求システム」。
支払いにいちいち拘るのは粋ではないとの、
旦那衆の「見栄」に店側が付け込んだ姑息な習慣だと私は思います。
お金に細かいのはみっともない、と見栄を張る気持ちはわかります。
しかし、遥かに金持ちである欧米人でさえ
明細には厳しいはずですから、
これは旦那衆の思い過ごし、勘違いではないかと考えます。
日本でも、まずフレンチ、イタリアンなど
洋食系で明細を出さないところはないでしょう。
銀座の高額洋食「榮庵」では
合計金額しか渡されなかったと記憶していますが、
ほかは思い当たりません。
しかし、和食系となりますと
あの「すきやばし 次郎」を筆頭に、高額鮨屋のほとんど、
そして京都も含めて
高額和食で出さない店が未だに多いのは事実です。
ではなぜ出さないのか。理由はいくつかあるでしょうが簡単です。

1、明細を書いて説明するのが面倒くさい。
2、ドンブリ勘定。
  客の容姿やその日の客入りで請求額を変えたいがため。
3、お酒など追加をごまかして多めに請求したい。

こんなものしか考えられません。
明細を書くのが面倒だといっても、
ドンブリではなくちゃんと計算しているならば、
すぐ明細を提示できるはずですが、
「次郎」では客が要求しても頑なに拒否するそうです。
二郎さんは確か本で、
座っている時間が長ければそれだけ高く請求すると述べていました。
明細に書けるはずがありませんね。
民事訴訟をおこせば、今の判事は合理的で
「粋」とか「慣習」に鈍感ですから店側は敗訴するでしょうが、
そんなことをする人は居ないでしょう。

鮨屋など客の入り具合で、
歩留まりがかなり出てしまうリスクがあるのは事実です。
よって客の入りが少ない日は、
客単価を上げて売り上げを確保したいと考えるかもしれません。
その場合、
リピートされると明細を出していたら矛盾してしまいますから
出せるはずがないでしょう。

鮨は原価率が高く仕入れ値が毎日違うから出せない
というエクスキューズも聞きます。
しかし仕入れが変動するのは鮨屋だけではありません。
フレンチもイタリアンもそうですし、
飲食業界ではない他の業界でも日常茶飯事のことです。
私の関係する業界でも、素材は相場で変化しますが、
完成品である商品は、
一度決めた価格はそうは簡単に変えられません。
その変動リスクをみて、
ある一定期間値付けをするのが経営戦略なのです。
極上のタネを札びら切って追い続けて購入、
しかしそのリスクは客にだけ持たせる、
というのは勝手ではないでしょうか。
ジャイアンツが頭を使わず札束で有名選手をかき集めているのと
変わりがありません。
仕入れの予算を組んで売価を決定、仕入れが高くなったときでも、
質を落としたくなければ客への請求を上げずに我慢してカバーする。
あくまで相場ですから、仕入れが予算より低い時もあるからです。
カバーしたくなければ、仕入れ予算にあったタネを購入する。
質は落ちるかもしれませんが、それを技術(仕事)でカバーする。
こういうシステムが本来あるべきものだと私は考えます。
最高のタネを用意できれば、誰でもそれなりの鮨は出来るでしょう。
監督で負ける試合は多いが、
監督で勝てる試合がほとんどないと言われる野球と同じで、
誰でも勝てる選手を用意したら、
監督は子供でも良くなってしまうからです。

また、「祇園 丸山」でしたが、
お勘定が確かに不明瞭に感じたこともありました。
どう積算してもその金額に届かない。
他のグループでしたが、強引に明細を出させ、
酒代を修正させていた現場を目撃しました。

自民党圧勝で、
さらに日本もグローバルスタンダード化が進むはずです。
鮨屋や高額和食屋だけが、
客の「粋」というか「見栄」に甘え続けていては、
ジャイアンツのように
いずれは凋落の一途をたどることになるといっては
言いすぎでしょうか。
厨房施設だけでなく、経営方針も近代化するべきと考えます。