第707回 ワインの諸々 65この本が売れるとは思えない アンリ・ジャイエ
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- 2005年7月17日(日)
ワインブーム華やかし頃、
ワイン入門書をはじめかなりのワイン本が出版されましたが、
ブームの真っ只中でも
そんなに売れるコンテンツではなかったいうのです。
ワインを特集した雑誌は別にして、当時は有名ソムリエ以外にも、
無名の街場のソムリエ(雰囲気を感じ取ってください)、
街場のワインアドヴァイザー、
街場のワインスクール経営者などの著したワイン本が
本屋に並んでいました。
しかし、売れた、評判になった、
増刷したといった話はほとんど聞きません。
あの日本で開催されたコンクールでの元世界一ソムリエ、
田崎真也氏の本もいかがなものでしょうか。
アマゾンで検索すると、
関与した雑誌も含めて60種以上がヒットしますが、
かなりの期間「平置き」されていた本があったかどうか。
薄数多種売は最初からの戦略だったとは思えません。
有名ソムリエの本でさえ売れないほど、
実際のところワイン愛好家の割合は低いと考えます。
そんな日本で、先日こんな本が売れるのか、
といったものを見つけ
思わず購入してしまいました。
白水社「アンリ・ジャイエのワイン造り」という本です。
私が以前からブルゴーニュでの
「カリスマ造り手」とぼかして表現していた
ワイン製造者たちの中で筆頭の造り手でありまして、
彼に密着して、ブルゴーニュワインの奥深さ、
ワイン製造の難しさを述べた本であります。
昔ブルータスが彼を
「ブルゴーニュの神様」みたいな表現で特集して、
彼のワインの相場がかなり上げてしまいました。
もう引退していますので、
世界中で存在する彼のワインの本数は限りあります。
高額赤ワインではロマネ・コンティが有名ですが、
彼の最高畑のワイン「リシュブール」は
今の相場ではロマコンに匹敵、
もしくはヴィンテージによっては上回り、
50万円ほどになっているのには驚きです。
他の特級畑、いや1級畑でさえ、
20万円以上の値がついている希少品、
10年前くらいまでは皆せいぜい数万円でしたから、
この急激な値上がりは異常です。
よって、知ってはいても飲んだ事がないという人が
かなりいらっしゃると思います。
今ならもう知らないワイン好きの方も多いかもしれません。
ただでさえ売れないワイン本ですが、
飲んだことのないワインの生産者、
もしくは知らない生産者のことについて書かれた本が
果たして売れるのかどうか。
ましてワインブームもひと段落した今、
これを翻訳・出版してきた白水社の英断に脱帽です。
ただ、初版数がすくなかったのでしょうか、
3月の1刷発行の後、5月に第2刷がでています。
このまま増刷が続けられるのか。
本が売れすぎると、再び人気・話題が集中して、
彼のワインがさらに暴騰してしまうのではないかと心配であります。
しかし、ブルゴーニュワインに賭けた彼の情熱、
そして醸造だけでなく、畑造りからブドウの育成、
樽熟成まで含めたワインの一貫製造の難しさ、
奥深さを知るには良い本だと思います。
ワインの醸造過程は単純で、
ワインの品質はブドウの質にほとんど左右されると、
ワイン業界の通説とはかけ離れたご意見を述べられている
一階下のコラム担当の古川さんには、
ぜひ目を通していただきたい本であります。