第585回 外食しない料理人をどう考えますか

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  • 2005年3月17日(木)
以前、年中無休の店の主人は風邪もひけない、
といったお題のコラムを載せました。
確かによくある定休日、日、月や水曜だけでなく
盆や年末年始、いや元旦まで開いている店はあります。
ホテルなどのテナント店では当たり前のことですが、
料理人はじめスタッフは
ローテーションを組んで休みをとっているはずです。

ところが最近、個人店、つまり看板の主人がメインで
完全年中無休の店の存在を知りました。
1年365日、昼から夜までずーーと店を開いているそうです。
それを何十年も続けているそうですから、
その熱心さにはただただ頭が下がるだけです。
家族や個人的な都合もあるでしょう、
風邪など体調の問題もあるはずです。
でも、楽しみに店へ来られる常連はじめお客さんの為には、
一時も店を開けられないという
ストイックな姿勢に私は驚きそして感心したものです。

でもその後もっと驚く事実を知ることとなったのです。
知人があるとき、その主人を他店へ連れて行こうと誘ったのですが、
店があるからと断られたとのこと。
年中無休なので、他店の営業時間帯、
つまり昼、夜ともに自店も営業時間帯なので、
店を留守にはできないとのことでした。
ふーん、と聞き流すところだったのですが私は気がつきました。
もしかして、
そのご主人はこの何十年も他店の食事を経験したことがないのでは?
果たして、他ジャンルの料理店はおろか、
かなりの有名店である同業の店さえも訪問することなく、
自分の店に引きこもって粛々と料理を造って
今日に至ってしまっていたようです。

私はマスコミ露出大好きな料理人は、
厨房にいないではないかと批判しています。
講演やイヴェントのほか、何の人脈造りかしりませんが
派手に食べ歩いて店に顔を出さない料理人は感心しませんが、
でも食べること、外食が好きなんですよね、彼らは。
彼らが、色々同業他店、他ジャンルの店を食べ歩いて勉強し、
刺激をうけ、世の流れも敏感に感知して
自分の店の料理やサービスに反映しているかどうかは別にして、
とにかく外に出なければなにも始まらないのは事実です。

他店の良いところ、というより同業他店と自店との料理の比較、
他ジャンルの学ぶべき点、お客さんの嗜好、
などは自店に閉じこもっていては
まったくわからないことだと思うのです。
派手に取り巻きやタニマチと
ただ食べ歩いているだけの有名料理人もいますが、
私の知っている限り、店の休みなどを利用して色々他店へ出向いて
情報や刺激を受けようとしている人はかなりいます。
他店のスペシャリテなど
自慢料理をパクろうとする手段はこの業界では当たり前のはずです。
一人前ではない、修行中の身の人でも機会をみて食べ歩いています。
あの完成された人間国宝みたいにあがめられている二郎さんでも、
「みかわ」や「ロブション」で食べている写真もありましたし、
同業の鮨屋も以前はかなり行ったと書いてありました。
「ロオジエ」のボリーさんも、
オープン間もない「ベージュ」へ行ったはずです。

ですから、自店の営業の為とはいえ、
他店の料理をまったく経験しないで
何十年もやっていけるのかどうか(実際続いているのですが)
私には不思議でならないのです。
本や雑誌、TVなどの情報はあるでしょうが、
それは私が言うところの「煽り・宣伝文」。
生のデータ、自分の肌で感じるものとはまったく違うものですから、
今浦島というか
まったく時代に取り残されてしまっている可能性も
あるのではないかと心配してしまうのです。
他ジャンルはまだしも、せめて同業他店の料理はどんどん経験して
刺激を受けてもらいたい、と思うのは私だけでしょうか。