第553回 ワインの諸々 その48ワインは造り手が一番大事なはず

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  • 2005年2月13日(日)
私は料理評論家、フード・レストランジャーナリストたちや
その他食通の方が、食材や料理の事を書く記事に、
ワインのことがでてくると、
「本当にワインのことがわかっているのか。
本当はそんなに経験がないのだろうな」とよく思ってしまいます。

マスヒロ氏しかり、その他のフードライターもそうなのですが、
食べた料理とワインの相性が良くておいしく感じたのでしょうが、
それだけで、「・・・地方」「・・・畑」のワインは・・・
のような味わいの特徴を持っているからこの料理と合う、
という決まり文句を使ってきます。
ワイン教科書や
ソムリエの一般的な説明を鵜呑みにしているのでしょう。
例えば、ブルゴーニュの特級畑であるこのワインは
その地の特徴をふまえてふくよかな味わいだとか、
シャブリは石灰質がどうだとか言い出すものです。
しかし、そこには必ずといっていいですが、
造り手の名が明記されていません。
造り手に拘らない、というか造り手をよく知らないのでしょう。

でも、もし周りにいらっしゃるならば
ワイン好きの方に確認していただきたいのです。
確かに総論としては地方によって品種が規定されていて、
テロワールというのですがその地の特色が出てくるのは事実です。
しかし味わいに一番左右される要素は、造り手なのです。
正確には栽培方法、剪定方法、ブドウの選定、
そして醸造方法などを含めたワイン造りそのものが
イコール造り手の特徴となります。
ワイン通は、勿論畑などにも拘りますが、
それ以上に拘るのがこの造り手。
グランヴァン(特級畑)が出ただけで(例えばモンラッシェとか)
「ワーワー」言われるのは初心者の方です。
造り手によっては、他のうまい造り手の格下、
極端に言えば1級や村名でもそちらのほうがおいしく、
より熟成するものが多いこともあります。

ボルドーはシャトーが実は造り手と一対一で対応しているので、
ワイン名だけ言っていればいいのですが、
ブルゴーニュやイタリアワインは造り手がからんでくるので
もっと複雑なのです。
同じ畑でも造り手が何十人もいる。
しかも、その出来、味わい、価格はピンからキリまである。
つまり複雑なマトリックスになっているのが現実でして、
シャブリでも正確には
大きく分けて2つの土地の特徴があるでしょうが、
味わいは造り手によってまったく違うものなのです。
極端に言うと、造り手によっては、
シャブリもモンラッシェ系の味わいになり又その逆にもなり、
ブラインドでは素人のほかプロでさえも
そう簡単にはわかりません。
だいたいワインの醸造技術を含めた
ワイン造りは簡単なものではなく、極めるのは難しいもので、
またその技術の進歩も目を見張るものがあります。
逆に言うと、地方のテロワールよりも、
「ワイン造り」の違いがより鮮明にでて来てしまいがちで、
ますます土地の違いがわかりにくくなっているのが
実情だと思います。

よって、土地の特徴がどうこうとだけ言っていると、
普通の読者が同じ畑で同じヴィンテージでも
価格の桁が一桁、二桁違う事実、味わいがまったく異なる、
ということを理解できなくなってしまうと考えます。

ヴィンテージでもワインは違う、と細かいことは言いません。
せめて、造り手が価格を含めてワインの味わい、
価値を決める一番大きな要素だということを、
書き手の方は理解してもらいたいものです。

器など、例えば唐津焼、輪島塗で、
作家によってまったく違うのと同じなのは、
普通の人でもわかると思います。
作家名なくして、通はこの器は素晴らしい、なんてやりませんよね。
輪島なら皆同じ味わいなのか、陶器もそういえるのかといえば、
ほとんどの人がノーと言うはずです。
ワインだけはワイン名だけでうまい、まずいを言う人が多い、
それだけワインをご存知の方が少ないということでしょう。