第406回 友里征耶のタブーに挑戦 その13なぜ同業者は黙っているのか

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  • 2004年9月6日(月)
同じ食材を扱っている専門料理店でも流行り廃れは極端なようです。
新橋近辺を歩いているとき、
この界隈では老舗と言われている鰻屋の前を通る時があるのですが、
7月の丑の日前後の繁忙期を除いて
さほど客の入り具合が多いと思えません。
分店をかなり整理したとの噂も聞きますから、
その経営は厳しいのでしょうか。

街場の鰻屋も、
そのほとんどが出前でなんとか持っている感があるのですが、
東京では「五代目 野田岩」と「尾花」だけが
一人いや二人勝ちしているようです。
いくつかある他の有名店も
それなりに客の入りは充分とは思いますが、
この2店は店外にかなり長い行列ができる珍しい鰻店です。

この2店の共通点は何でしょうか。
私のコラムを読まれた方は直ぐピンと来ると思います。
「来店した客に出せるほど『天然鰻』を仕入れていないのに、
料理評論家、フード・レストランジャーナリストたちのアシストで、
『天然鰻』に拘り、提供し続けているように
一般読者、一般客に錯覚させるよう宣伝している」、
という営業姿勢です。

店のパンフレットや仲の良い山本益博氏を使って、
あたかも冬以外は天然鰻を出しているように宣伝している
「野田岩」。
マスヒロ氏はその著書で、
冬でもアイルランドから
天然物を仕入れているようなことまで書いていました。
アイルランド産は種が違うはずですが、
それでも天然物の方が良いと思っているのでしょうか。
最近までは、店内に
「天然なので食べるときは釣り針に注意」
などと書いていましたが、
その頃でも「白焼き」以外の蒲焼、鰻重といった
ほとんどの客が注文する鰻は養殖物のはずです。
釣り針に当たったという実話を私は聞いた事がありません。
そしてこの店は、筏、中串といった天然鰻は入手が少なく、
またそれだけが天然鰻だとは、
客から聞かれるまで自ら開陳しておりません。

「尾花」にしても、
暖簾や持ち帰り用の紙袋には「天然鰻」と書かれてありますが、
団体専門店のごとく押しかけている一般客が食べている鰻は
皆養殖物です。
たとえ入手していたとしても、筏、中串、大串といった天然鰻は、
一皿1万円をかるく超えますから、
そう簡単には食べられる物ではないのです。

しかし、他の有名店に注目してみてください。
私の知る限り、「天然鰻」に拘っていると宣伝し、
「天然鰻」を出しているフリをしている店はないはずです。
何日に一回、もしくは毎日1匹でも
「天然鰻」を仕入れるということで、
「天然鰻の・・・店」と宣伝しても嘘にならないといった、
言い逃れできる頭脳的な戦略をとっていれば、
「野田岩」、「尾花」の2店のように
マスコミ、料理評論家を懐柔して
「天然鰻の・・・店」として集客も楽に、
そして大箱にして売り上げも倍増できるのではと考えます。
そんな騙しみたいな宣伝をしないのは、
他の有名店はまだ「鰻屋の矜持」を持っているからでしょうか。

集客に苦労している老舗鰻屋が、
「滅多に客に出せないはずの『天然鰻』を
あたかも数多く取り扱っているように宣伝して
集客をはかるのはおかしい。同じ『焼津の養殖鰻』じゃないか。
それだって真の意味で国産か疑わしい。
羊頭狗肉のようなものだ。
メニューで、筏、中串の欄に『天然鰻』、
他の蒲焼、鰻重には『養殖鰻』とルビを振らなければ、
不当表示で公正な競争にならない」
とクレームをつけないのが不思議です。

日本人はディベートというのでしょうか、
真っ向から議論をのぞむことを嫌い、
黙って現状に甘んじる性格の人種であります。
しかし、仕入れ鰻に差がないのに、片や鰻ではなく、
客を捌ききれないほど人気がある、こっちは経営に四苦八苦。
しかも先方は「不当表示、不当宣伝」
の疑いのある営業だというのは
同じ業界では誰でも知っていることです。

座して死を待つより、
このような一般客に誤解を与える手法を改め、
健全な鰻業界にするため堂々と問題点を追求する
若手の鰻経営者はいないのでしょうか。